酒と餃子と僕らの夜
注意
主人公の女々しいシーン?があります。
何の変哲も無い土曜日は朝にかかってきた電話1本でがらりと変わった。
「鈴木くんー、ねぇ、聞いてる?」
「はい、聞いてますよ」
僕の目の前では、幸田さんが管を巻いている。お酒を先ほどから飲んでいるからだろうか。僕は先ほどから餃子をずっと作り続けている。
失恋して落ち込む幸田さんを元気付けようと、僕は彼女のお願いを聞く事にした。一緒にクレイアニメーションの映画を見て、話題のカフェでケーキを食べて、あちこちのお店を見て回って。ついでに僕は服を2着、幸田さんは靴を1足買った。
そして、今。「餃子食べたい」と幸田さんが言ったので、材料を集めて僕が作っている。因みに皮も僕が作っている。
小麦粉と水とごま油を混ぜて、よくこねて。こねあがったら適当な大きさに分けて、それから伸ばして、小さく切って、丸く伸ばす。手間はかかるけど、水餃子するならこっちだね。
暑いのに水餃子なのは、幸田さんのリクエスト。彼女は焼き餃子より水餃子派なんだそうな。僕もたまには食べたいと思っていたし、いいかもね、と今回は手間隙かけてみた。
中身は細かく切った白菜に葱、豚ミンチ、鶏がらスープの粉末。よくこねて味付けして、皮で包めばOKだ。あとはたっぷりのお湯で湯がくだけ。
出来上がった水餃子はぷりぷりで、すっごく美味しい。その証拠に幸田さんは幸せそうな顔をしている。彼女は日本酒を少しずつ飲みながら、ふうふうと水餃子を冷ましつつ食べている。
お酒が好きな幸田さんだが、下戸の方だ。だから、あんまりお酒を飲まさないようにする。前回の飲み会でも鹿島さんと協力してあの手この手でお酒以外の物を飲ませたっけ。
幸田さんは、餃子が美味しかったのか嬉しそうな顔をして「旭くんてば優しい~」とか言っている。恥ずかしいからね、それ。
「ところでさ。旭くんて恋人いるの?」
「大学時代に別れてからいません」
幸田さんの問いに、僕はぽつりと答えた。
相手の子は、いい子だった。けれど、何か違った。
『ねぇ? そろそろご両親に紹介してくれるわよね?』
『あのね? ウエディングドレスと着物、どっちが好き?』
『子供は、3人は欲しいかなぁ~』
『旭君って、次男でしょ? 同居とかしなくていいわよね?』
『旭君の家って凄いよね』
今思えば、結婚結婚ってがっつきすぎていた気がする。同級生なのに、なにをそう焦って結婚したがっていたんだろう? 僕がそう聞いたら「だった旭君とずっと一緒にいたいんだもの」とかえってくるけど、僕が今の会社に勤めるって解ったときは微妙な顔をしていたし、僕が市民楽団にいる事もあまりよく思っていなかったように思う。
デートは僕が支払うのがあたりまえ、というような顔をする女の子。僕が優しくして当然、だと思っている女の子。それでいて、バレンタインのお返しを3倍で返す事を当たり前だと思っている女の子。僕はそんな彼女と付き合っているうちに自分の見る目がなかったと思って、別れた。
「疑問に思うことをぶつけたら泣かれてしまって。正直どうしようかと」
「あっはっはっ、旭くんも苦労してるねー」
お酒で陽気になった幸田さんが笑う。僕はつられて苦笑して、日本酒を飲んだ。水餃子を食べれば少しは落ち込みかけていた気分があがる。
「でも、別れてよかったですよ。彼女、3ヶ月後には他の男の人と付き合っていたし。もうどーでもいいですよ~」
「立ち直ってるんだ」
「ま、長い事たっていますから」
僕は幸田さんに肩をすくめておどけてみせる。
ふと机を見れば、例の彼女から来た葉書があった。彼女は何を考えているのか、僕に結婚式の案内状を贈ってきたんだ。正直、行くほうがバカみたいだったので欠席に丸つけて送り返している。
「それより、僕は鹿島さんや幸田さんたちと音楽やってるほうが楽しいんです」
「それはうれしいねー! 私も暫くは音楽で満たそうかなー!」
そんな事を言い合いながら、僕らは水餃子を食べ、音楽について語らったり互いの恋愛感や体験を語っていた。気の置けない友達って、いいもんだよね。
帰りはなかなかいい時間になっていた。僕は幸田さんを家まで送り、1人帰宅した。寂しくなった部屋を片付けながら、何気なくまた幸田さんとサシで飲みたいな、と思っている事に気づいた。
(あ……)
そこで気づく。幸田さん、スマートフォンを忘れていっている事に。しょうがない、彼女のパソコンにメールを入れておこう。明日の朝、待ち合わせして渡せばいいんだから。
読んでくださりありがとうございました。