カルダバという名のアイツと、両親
いよいよ、鈴木兄弟の両親登場、です。
その日、僕と兄は忙しかった。
というのも……もうすぐ両親が帰ってくるのである。それまでに、掃除を終わらせなければならない!!
「旭、お前掃除もっとしっかりしろよ!」
「あのねぇ兄さん、こっちもちゃんと掃除の日を決めてやってますよ?」
「住んでいる場所だけじゃなくて、普段使わない部屋もやれって言ってるの!」
「換気して、埃とりシート使ってますけど?」
「それだけじゃ不十分だって言ってんの!」
とまぁ、喧嘩しながらも兄弟で培った阿吽の呼吸(?)で分担し、高い所は兄、低い所は僕がきれいにしていた。
事の起こりは僕が大河内さんと寿司を食べた翌日にさかのぼる。
仕事を終え帰宅した僕のスマホに、父からのメールが入ったのである。
その内容は『もうすぐ帰国するYo!』の一言。そして、すぐに送られてきた母からのメールによるとなんかツアーの予定が変わり、早めに帰ってくることになったらしい。先に荷物を送ってもらうので受け取っておいてね、との事。
だから、それから3日後の土曜。兄と一緒に掃除に勤しんでいたのである!
「「ふぅ~~~~」」
掃除を終え、一息つく僕ら。そこに来客を告げるチャイムがなる。へばっていたけれどもどうにか気力で起きると、宅急便のおばちゃんだった。後ろの旅行トランク2つからして両親の荷物が届いたらしい。それと共にクール便もあるとの事。お土産かな?
「荷物が届いたのか」
「うん。あと、お土産……」
その段ボールには『カルダバ』と書かれていた。カルダバ? いったいなんだろう?とスマートフォンで検索を駆けようとしたら兄がぽつりと言った。
「あー、調理用バナナか。この間友達が言っていたやつかもしれない」
そう言って箱を開ける。と、なんか普通のバナナに比べて見た目がごついバナナがでてきた。ちょっと角ばっているような気がする。大きさはさほど変わらないような気もするし、ちょっと太い気もする。気になるのは……青さ。
「熟していないうちは渋いけど、加熱すると消える。俺は食ったことがあるんだがなかなか美味いぞ」
「そうなんだ……。焼きバナナにしてみようかな」
僕はその中でもかなりまるまるとしている2本のカルダバを選び、キッチンに持って行った。やっぱり疲れた時には甘いモノが一番だよね。甘さが足らなければメイプルシロップでオシャレすればいいかな? それともチョコレートのほうがいいかな? 粉砂糖があればインスタ映えするかな? 想像するだけでわくわくしてしまうし、涎も沸いてしまうなぁ。じゅるり。
「なぁ、旭。お前本当に調理している顔がかわ……楽しそうだな」
ねぇ、兄貴……今『かわいい』とか言いそうになったよね? とりあえず目で困惑を表したらそっぽ向いて口笛拭いていた。兄貴よ、僕をどんな目で見ているんですか。
それはさておき、まずはフライパンを熱してマーガリンを投入。ちょっと多めがいいかな? その間にカルダバの皮をむく。まぁ、丸焼きにしてからカットでもいいよね、兄弟だもの。
いい匂いがする中フライパンに投入し、中火で焼く。いや、なんだろうな、バターとかマーガリンの匂いって、なんかこう、ほどよいとほっ、とするんだよね。食欲が湧いてくる。
ほどよい焦げ目がついた所でひっくり返せば、ふわりと漂う匂い。早く食べたいなー!
「きつね色の焼き色がつけばいいかな?」
「それがちょうどいいだろう。あ、シナモンある?」
カルダバの焼き色を見ながら問うと、兄貴が調味料の入った籠に手を伸ばす。お目当てのシナモンですがその手前ですよ。ほら、あったでしょ? と僕が首をかしげると兄貴は「ん」と頷いて小瓶を取り出した。
「程よく書けるとおいしいよね」
蓋を取ってふわふわ、と2振り。ただし微妙に高い位置から振ったからくしゃみしそうになっちゃった。そっぽ向いてひじの裏あたりで口と鼻を隠し、盛大にくしゃみしている間に、兄貴が焼きカルダバを皿によそっていた。
ほどよい焼き色のついたカルダバは、実にバナナとマーガリンの匂いを湯気にまぜ皿に鎮座していた。無言でナイフを入れ、口に入れる。と、ほどよいとろみと風味が舌で踊る。食感? 奥歯で噛めばなんとなーく芋の食感がしたなぁ。ほくっ、とした感じ、すっごく好き。語尾にハートがついちゃうぐらい好き♡
「やっぱ美味しいなこれ。今度嫁にも食わそう。多分家にも届いているだろうし」
兄貴も嬉しそうにもぐもぐしていた。そしてスマホで写真にとると、SNSにアップしているようだった。なんか楽しそうだな。
と、そこですっ、と伸びる紺色の袖。傍にあったつまようじで刺して食べるその手におもわずぎょっ、としているうちに
「ん。やっぱ美味しいわこれ。買って正解……。ゆうちゃんも食べなー」
とか言っている。ねぇ、ただいまはどうしたのよ親父殿。
「わっ?! 親父いつ帰って来たのさ……」
「た、ただいま。お父さん、ほら、だからチャイムをもう1回ならしたほうがいいって言ったんだよ」
兄貴がそう親父に言った後ろから、母さんが苦笑していた。僕はやれやれ、と肩を竦め、テーブルから皿を取り上げた。
「手洗いしてから食べてよね。あと……お帰りなさい」
手を洗ってきた両親とともに、あらためてカルダバを食べる事に。ついでに「これも食べよう」と父が出したクッキーの缶もあけてティータイムと洒落こんだ。
「いやぁ、悪い悪い。メールしようとおもったらスマホの充電が切れてなぁ。一応留守電に昼頃帰宅って入れていたんだが」
「「え?」」
父の言葉に、僕と兄は顔を見合わせる。慌てて留守電を聞いてみると確かに、父からの伝言が入っていた。掃除に夢中になっていて、気づかなかったなー。
母は僕らの様子に苦笑しながらも紅茶を飲みながのんびりほほ笑んでいる。父は苦笑する僕らを見ながらクッキーをもしゃもしゃ食べている。
「このクッキーにカルダバが合うなぁ。……近所でも売ってたらいいんだけどなー」
「いやいや、流石に難しいよ」
両親は2人平和にそんなことを話しているが、ふと、僕は気がかりなことを思い出した。このマンションの管理人業務である。もともと僕はお留守番の間だけって約束だったわけだけど。
僕がそれを問いかけると、父があっけらかんと
「それに関しては、引き続き手伝いよろしくね」
と笑顔で言った。
引っ越しした方がいいのかなって思って一応物件みていたけど、大丈夫そうかな……?
ここまで読んでいただきありがとうございます。




