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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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インフルエンザに敗れた者とカキ


(やっちまったぁ……)

 あの鍋をつついた日から2日後、僕は病院でぐったりしていた。いや、朝から調子が悪いとおもったらインフルだったよ! 見事にインフルエンザB型だったよ! 関節痛くてお仕事いけないし、流石にお見舞いとか断りたいよ(うつすといけないから)!!

 病院の先生からも「安静にしていてください」って言われた。そうしますよ、商売にならないから。


 食欲もなく、しかたないので柿をむく。

 熟れた柿の、あの濃厚な甘さはなんとなく好き。どろっどろに熟れた柿は半ば飲むようにかじりついてしまうのが好き。そうやっていると、なんだか自分の中に野生を感じる。

 無言で熟れた柿を食べていると、携帯にメールが来た。だれだろうとおもったら、先日遊びに来てくれた佐藤さんからだった。メール内容を読むと、佐藤さんもあの後インフルになってしまったらしい。

 佐藤さんは、お仕事がらインフルエンザの予防接種を毎年やっているそうだが、なってしまってへこんでいた。お互いに安静にしようね、と僕はメールをかえし、ベッドに戻った。


 食欲が無いから柿だけで昼食を終えると、ベッドで眠った。

 関節の痛みとか、けだるさであまり眠れないかな~、とか考えたけど薬のお陰かあっという間だった。目が覚めたとき汗びっしょりで、酷くのどが渇いた。

 ちょっとだけ空腹だったからまた柿をむいてむしゃむしゃ食べた。程よい甘さが喉にしみる。倦怠感がちょっと薄れた気がしながら水を飲んでいると、兄からメールが来ていた。


 インフルになった。嫁にうつすといけないからそっちで暫く休ませて。

 嫁に関しては義理のお母さんたちがこっちに来て面倒見てる。


 ……兄者もかぃ。

 しょうがないので「僕もインフルエンザで休んでいるけどいい?」と返信し、簡単に掃除をして兄を待つ。夕方、兄は買い物とボストンバッグを手にやってきた。

「仕事中に熱出しちゃってさ。病院に行ったらインフルエンザB型だってさー。丁度嫁さんのご両親が遊びに来てたからさ、そのまま妻の事を頼んできたよー。身重じゃなかったら1人でも大丈夫だけどさー、やっぱ心配じゃないか」

「まーね。気持ちはわかる」

 そう言いながら僕は「ご近所さんから貰ったやつだけど」と柿をむいた。兄は「美味そうじゃないか」と早速食べて嬉しそうに顔をほころばせた。兄は果物を好物としていて、秋は柿が美味い! といつも言っていたっけ。

 その柿も残り2つ。それを仲良く分けながら兄がふと、言った。

「そういえば、幸田さんて恋人?」

「ぶっ?!」

 おもわず噴出していると、兄が「汚いなぁ」と眉を顰める。

「いや、その、なんでそこで幸田さんが?」

「お前がインフルって知ったらしくてな。お見舞いいったら迷惑だろうし、とこれ、預かってきた」

 と、手渡したのが買い物袋だった。ゼリー状のスポーツ飲料とか、栄養ドリンクとか、しょうが湯とか、色々と入っている。そして手紙も入っていて、内容は先日の看病のお礼だった。

 兄も幸田さんのことは知っているし、会った事もある。その時、高校時代からの友達とは説明していたが、兄は

「お前の話をする幸田さん、めっちゃ可愛かったぞ。だから恋人かなー、と」

 考えたらしい。いや、そうなったら嬉しいんだけどね。

「友達、だよ……。今は」

「そうか。元カノか」

「なんでそーなる」

 兄の言葉に僕は思わず突っ込む。兄はそんな僕を見て楽しげに笑いながら肩を叩いた。ちょっと痛いのは関節が未だ痛いからだけじゃないと思う。

「冗談だよ。なんにせよ、がんばれよ。あれ、脈が有るぜ」

「だといいけどさ」

 僕の呟きに、兄は苦笑しながら頭を撫でてきた。こちとら20代です、恥ずかしいからやめて欲しい。


 インフルから回復した頃には2月も目前になっていた。

 ……よし、バレンタインにもう一度告白しよう。

 そんな風に決意しながら、僕は拳を握った。



 


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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