インフルエンザに対抗したい者の宴とカキ
「急な召集に応じてくれてありがとうな」
鹿島さんの音頭で集まってくれた全員が乾杯をする。グラスにはビールや日本酒が注がれ、実に宅呑みの雰囲気である。
テーブルの中央には、2つの鍋。牡蠣が入った寄せ鍋と、海鮮チゲ鍋である。その他、柿もデザートとして準備万端。おまけに炊飯器のご飯も一升分用意されている。
集まったメンバーはいつもの低音パートメンバーの男性陣+他のパート数名。偶然女性陣はみんな都合が悪かった。因みにファゴット一家も欠席。
……実にむさ苦しいのは仕方がないか。
しっかし夜も更けてきた頃だというのによく集まったなぁ。若衆は僕も含めて暇なんだろうか? まぁ、今日は週末って言うのもあるんだろうけれど。
鍋を囲んでわいわい楽しみながらも、話題にはよくインフルエンザが持ち上がった。
「今、大学でも流行っているっすね。俺も気をつけなくちゃ……」
逢坂さんがため息混じりに言えば、大河内さんは「あ~……」と眉を顰めた。
「俺の会社でも注意するようにって言われてたなー。営業部なんて全員インフルエンザの予防接種してこいって社長命令だったし。俺は何故かインフルにかかった事がないんだよな……。念のために予防接種は毎年しているけど」
「いいなぁ……。僕なんか毎年AかBのどっちかにかかっているんですよぉ。こっち自営業だし動けないのマズいんだけどなぁ」
そう言っているのはトランペットパートのリーダー、金沢さんだったか。そういえば2年前なんかインフルの所為で年末の定期演奏会に出られなくなってすっごく落ち込んでいたっけ。
他の皆もインフルが不安だとか、今年も流行が長引きそうとか、ちょっとテンションが下がるような話題が出る。それでも、牡蠣入りのチゲ鍋は身体を温めてくれる。さっき暖房消したよ、みんなが「暑い」って言うから。
辛いスープの中で踊る海鮮と豆腐、野菜。ご飯と一緒に食べれば体脂肪を燃やすイメージを湧かせてくれるほどの程よい辛さと暖かさで喉を通る。
寄せ鍋だって負けてはいない。旨みをたっぷり含んだスープは、落ち込んだ気分をまろやかに宥めてくれる。いいよね、この『ほっ』とする風味。ぷりぷりの牡蠣をぽん酢で頂くのも風味があっていいよね。かんきつ類のさわやかさが食欲をそそる。
そして、そこにきゅっ、と日本酒。身体が温まっている分、それで少しぼんやりした心地から引き戻されるけど、だからこそ幸せを感じる。
「冬って、こういうのがあるから楽しいんだよね。インフルはさておき」
と、大河内さん。そういえば、今回はおすすめの日本酒を持ってきてくれたんだよね。これ、本当においしい……。この人の『おいしいもの』には本当にはずれがない。
大河内さんにお酒を注いでもらった金沢さんは嬉しそうに飲みながら、うんうん、と頷く。
「この季節だからこその楽しみだね。こうして皆で鍋をつつく幸せ、いいよね」
「これが恋人や奥さんと、だとなお良し」
「それいわんといてぇな」
逢坂さんの言葉に、鹿島さんが苦笑する。この人は、奥様を亡くされているからなぁ。でも、その顔に悲壮感はないし、本人も「気遣い無用」と言っていた。ちょっと複雑ではあるけど、本人が言っているのだから深くは言わない。
そして、何故意味深なまなざしを向けるんですか、鹿島さん。
「シメはどうします?」
「チゲの方を雑炊にして、寄せ鍋はうどんはどうだ?」
僕がそれとなく話をそらそうと問いかけると、大河内さんが提案する。と、普段は恥ずかしがりやであまり喋らないバスクラリネット担当の佐藤さんが挙手していた。
「ん? 佐藤ちゃん珍しいじゃん」
大河内さんの言葉に、佐藤さんはちょっと小さい声で
「僕は、チゲをうどん、寄せ鍋を雑炊がいいなと思ったんだけど……」
と言った。遠慮がちな気がしたが、普段は周囲の反応に合わせがちな佐藤さんが自分の意見を言ったのが、凄く印象的だった。
「んー、わいも佐藤君と同意見。ほかの皆は?」
と鹿島さんの音頭で多数決に。迷いに迷った挙句、といった雰囲気でみんな意見を出し、今回はチゲがうどんで寄せ鍋が雑炊と相成った。
「雑炊に、チーズのせるとちょっとリゾット風っぽくなる……。僕の祖父がそう言ってよくピザ用チーズを雑炊にぶっこんでいました。よかったらやります?」
「それはそれでおいしそうだけど、鈴木ちゃんとこピザ用チーズある?」
佐藤さんがぽつり、といい、金沢さんが問いかけてくる。僕は冷蔵庫をみたけど、その中にピザ用チーズはなかった。そういえば、グラタン作ったときにつかってしまったっけ……。それを伝えたら、みんながちょっと残念そうな顔になった。
食後は柿をむいてみんなで食べたよ。
熟した柿は、本当に甘くて美味で、みんな無言だった。
よく食べて体力つけて、インフルの流行を乗り切ろう!
……と思っていた時期が僕にもありました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
……地味に次回に続きます。




