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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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真夜中の台所とお弁当の話

久方ぶりの投稿でした。


 出社した日、同僚の真田さんが婚約者さんに作ってもらったお弁当を嬉しそうに食べていた。それをうらやましく思いながら、僕は近くのサンドウィッチ屋で買った、アボカドとエビのサンドにかじりついていた。

「ん? 昼はどーしたんだー?」

「寝坊しちゃったから、これ」

 僕が食べかけのサンドを見せると、真田さんは「めーずらしぃ~」なんて言った。

 正直な事をいうと、手作り弁当に勝るランチなんてない。僕も普段は自分で作っているのだ。自分の、真昼の、『口福』のために。

 真田さんと他愛もない話をしながら、僕は「お弁当かぁ」となんとなく母の顔を思い出す。


 * * *


 僕がまだ子供だった頃。

 僕の父は朝早くから仕事に行っていた。その為、母は父のお弁当を夜中に作っていた。それを知ったのは、僕が小学生の頃だった。


 その頃はのちにマンションを遺産相続で貰う事になるとか予想していなかったし、ごく普通に古い社宅に暮らしていた。

 僕は、学校が終わると「ただいま」と言ってすぐ「いってきます」と外に出かけるような、どこにでもいる男子小学生だった。兄は既に料理に目覚め、何かと母の手伝いをしていた。

 母はそんな兄に時折夕食の下ごしらえを手伝ってもらいながら、別に1、2品作って冷まし、冷蔵庫に入れていた。

「お母さん、それおいしそう。食べていい?」

 ある日、冷蔵庫をあけた僕がそれを見つけ、母に問うた。すると母は苦笑して

「ごめんね。それはお父さんのよ」

 と言って替りにプチトマトを僕の口に入れた。ぷちぷちとはじける酸味を味わい、飲み込んだ後、もう一度冷蔵庫の中の『それ』を見つめて「いいなー」と呟いた。その料理が、妙においしそうだと思ったからだ。

「それじゃあ、今度の遠足に持っていく弁当に入れよう。約束ね」

「お願いします」

 僕は母の言葉に頭を下げた。


 その夜、僕はトイレに行きたくなって目を覚ました。トイレへ行くために台所を抜けようとすると、母と出くわした。その顔はなんだか、安心する暖かい顔だったが、僕を見ると、もっと暖かい、『おかあさん』というような顔になった。

 母は首をかしげて

「こんな時間に珍しいね。おトイレ?」

 と聞いてきた。僕は1つ頷いてトイレへ行こうとしたが、その時に見たのが、夕方、冷蔵庫でみたおかずだった。

 トイレに行った後、母に何気なく質問すると、さっき僕が冒頭で言った事を教えてくれた。父は出勤時間が早い。だから母は朝食用におにぎりを作り、緑茶の水筒を用意し、昼食の弁当も持たせていた。

 真夜中にお弁当を作る母の背中と、なんとなく見せた『ほっ』としたような、……『おかあさん』とは違う、『おくさん』という印象の顔が妙に頭に。焼きついた。


 そんなある日。母が頬杖をついてむくれていた。原因は夫婦喧嘩である。理由はわからなかったものの、離婚する、しない、とかもめて酷く不安だったのを覚えている。両親がいなくなるのはいやだったし、兄と分かれるのも絶対に嫌だった。

 母はからっぽのお弁当を手に「なにいってんだろなー」なんて呟いて、そっと食器棚にそれを片付けると、小さくため息をついた。

 母は、『わけあり』だ、と父は言っていた。結婚する少し前までは人の目を気にしすぎる、びくびくしやすい人だったらしい。だから、父はそんな母に声を荒あげることを滅多にしなかった。それなのに、前の夜、二人は大喧嘩したのである。

 それはさておき。母はおもいっきり落ち込んでいた。そんな母を励まそうと、兄と僕でカレーを作ったが、母は青い顔で

「お父さん帰ってこなかったらどうしよう」

 と言っていたのを思い出す。子供の頃はただただ不安で仕方がなかったが、今見たら「母さんしっかりして」と言っていた、だろうな。

 今にも倒れそうなほど落ち込んだ母さんを見るに見かね、兄が父の会社へ電話しようとしたとき、父がドアを思いっきり開けて駆け込んできた。

「……昨日の夜は、言い過ぎました。ごめんなさい。嫌いでもいいですけど、離婚だけはしません」

 母は父を見るなりそう言った。泣きそうな顔なのに、何故か目の奥に暗い炎が見えて、少し痛々しい母の顔。父はそんな母に

「私も、言いすぎた。離婚しないから、笑ってくれ。あと、弁当作ってくれ。今日は食堂の設備がぶっ壊れて昼飯食いそこなった。当分食堂が使えない。弁当、絶対に作ってくれ」

 と、いっきに言い切った。


 今思えば支離滅裂ではあるが、両親は仲直りした。


 色々その後話を聞いたが、僕が覚えていたのは。お弁当のくだりだけである。

 喧嘩した際、父は勢いに任せて「明日の弁当はいらん。作っても捨てる」と言ったらしく、母はそれに対し「どうなってもしらんわ」と言った、らしい。

 そして、この後。夫婦喧嘩の挙句父が母の弁当を拒否すると、何故か会社の食堂の設備がぶっこわれ、父は昼食を食べ損ねるか、コンビニ弁当を食べるかのどちらかだった。そして仕事が終わるとダッシュで帰宅し、母に謝罪して弁当を頼むのだった。


 それはさておき。

 ともかく、母が父へほぼ毎日お弁当を作っていた記憶は、ずっと残っている。

 母が、父へ「しっかり食べて、お仕事気をつけて」とお願いするように作っている印象のある、『おくさん』の顔で作っていたお弁当。

 僕は、いつか、奥さんへ『だんなさん』の顔で、作るんだろうか。



201704:ネット小説大賞は、やっぱり一次選考にもひっかかりませんでした。

今後も、よろしくおねがいします。


終わり、今の所みえていないけどぼちぼちいきます。


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