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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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肉まんを食べながら

 1月も半ばに入ったある日。同僚がやった仕事のミスをカバーリングするべく徹夜したので物凄く眠かった。どうにかこうにか会社に行き、ふらふら~と帰宅していると、コンビニが目に入った。

(肉まんかぁ。食べたいなー)

 ふらふらした足取りで肉まんを買いに行くと、妙に威圧感のある男性が……。あれ? 見覚えがあるぞ?

「笹山……さん?」

「篠山だ」

「ごめんなさい」

 見覚えのある男性に声をかけたら、幸田さんの会社にいる人事部長の篠山さんだった。名前間違えて憶えていた。……ダメじゃん、自分。

「鈴木くん、だったか。今日は1人か?」

「えぇ、まぁ。ちょっと色々ありまして」

「そうか。私も色々あってね」

 そう言いながら篠山さんは少し何か考え、肉まんやらあんまんやら幾つか買うと僕に「ちょっとつきあってくれ」と言ってきた。不思議に思いながら一緒に歩き、公園のベンチに腰掛ける。すると、篠山さんは「食べてくれ」と僕に肉まんを1つ手渡した。

「おごりだ」

「ありがとうございます。でも、いいんですか?」

 僕が恐縮していると、「いいってことさ」と篠山さんは小さく笑った。


「私は今年の3月定年なんだがね。まぁ、別の会社から『こいよ』って誘いがあったんだ。……私はもう田舎に引っ越したいんだがな」

 なんでも既に家を購入し改築しているそうだ。趣味でDIYを嗜んでいるそうで、写真で作った物などを見せてもらったがなかなか素敵な家である。

 奥様と、ふわふわとした秋田犬と一緒に写る篠山さんは、普段と違って朗らかな感じに見えた。いつもこんな顔をしていたらとっつきやすいのに、と思ったが篠山さんにも事情があるのだろうな。

「じゃあ、断るんですか?」

「そうしたいのだが、相手が恩人でね。妻と話し合って数年だけ手伝う事にしたんだ」

 問いかけると、篠山さんはそう言いながら肉まんをぱくっ、とかぶりついた。ふわりと昇る湯気と、旨みの詰まった餡が外気に晒される。風にのって匂いが漂えばちょっと胃袋が刺激され、僕も肉まんにかじりつきながら相槌を打つ。

 あったかい肉まんを持っていると、なんだか幸せなんだよね。食べるときはちょっと多め酢醤油があるとより美味しい。まぁ、コンビニで買って暖かいうちにがぶりつくのも美味しいけど。最近はこだわったやつ(その分値段も高い)もあるけど、オーソドックスなのが最終的にほっ、とするんだよね。

 肉まんの美味しさに心が丸くなっているところで、「ん?」と我に帰った。

「そういえば、篠山さん。何故その話を僕に?」

「いや、なんとなく鈴木くんだと話しやすくてね」

 篠山さんは、僅かに笑ってそう言った。そして、缶コーヒーをぐっ、と呷ってから、どこか穏やかな表情で遠くを見つめる。

「なんか、こう……とっつきやすいというか、話しているとこっちまで気持ちが穏やかになるんだ。君、カフェのマスターとか向いているんじゃないのか?」

 そんな事を言われたのは、初めてだったりする。けれども、たまに「君と話していると、和む」とか言われる事もある。一緒にいるだけで心が落ち着くって人もいるみたい。だけど大抵そういって寄ってくる女子は僕の友人狙いだったりするんだよね、恋愛では。

 篠山さんは肉まんを美味しそうに食べながら、苦笑して「女房には内緒にしてくれよ? 実はこの間食べ過ぎて禁止令が出ているんだ」と言っていた。僕は「わかりました」と頷いて、レシートの処分を引き受けたのだった。


 篠山さんは帰り際、ぽつり、とこんな事を言ってきた。

「君、幸田君の恋人のフリをしていたんじゃないのか?」

「どうして、そう思うんです?」

「いや、恋人にしては距離が少し離れている気がしてね。君が遠慮している感じがするからさ」

 僕は内心でぎくっ、としたが……少しだけ申し訳ない気持ちになった。謝ろうとすると、篠山さんは手でそれを止める。

「私が見合い話を持ってきたから、それでだろう。気にしなくていい。それに、君自身は幸田さんを好いているのだろう? 私は黙っておくから、がんばりなさい」

 篠山さんはそういうと、残ったあんまんやらピザまんやらを僕に手渡し「おごりだ」と言って立ち去った。後日、なにか御礼をしよう、と僕は心に決めた。


 


篠山さんには、バレていた模様。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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