無自覚焼き餅
大晦日のすき焼き打ち上げも終り、逢坂さんは駅へ、大河内さんは旅行へ。鹿島さんは鹿島さんで息子さん夫婦とテレビ電話で話すとかでお部屋に戻った。中島くんはお迎えに来たパパさんと一緒にホームセンターへ買いだしに行くそうな。そして今。僕は幸田さんの2人きりである。2人きりである。……妙に緊張するのは僕が自分の気持ちに気付いてしまったからだろうか……。
「鈴木くん、お願いがあるんだけどさ……今夜だけでいいから一緒にいて」
「いや、僕と幸田さんの仲だからそんな頼み方じゃなくていいよ~」
僕が思わず笑っていると、幸田さんは申し訳無さそうに言う。
「だって、妙に寂しくて。他の人だと誤解招きそうだし、鈴木くんなら安心だし」
「ちょいまち。何が安心なのさ」
僕が『安心』って言葉に思わず笑いを堪えきれずに居ると、幸田さんは少しだけ顔を赤くした。
「悪気はないのよ。鈴木くんは気兼ねなく話せるからって事。それに、居心地がいいの」
「そんなこといっても何も出ないよ。あと、僕も一応異性なんだから」
幸田さんが本音を言っている気がするけど、それ、他の男性だったら気があるとか思われても仕方ない、と思う。僕もそう思いたくなる。それに、妙に無用心だな、と心配になった。まぁ、恋人だった人に裏切られて色々あるんだろうけど。
(あ、そうだ。鹿島さん、電話が終わったらこっちこないかな)
ふと、そんな事をおもってしまう。いや、その、妙に幸田さんを意識してしまってぎこちないと言うかなんと言うか。でもまぁ、うん。この際幸田さんが僕を思っているか少し観察してみるのも悪くないかもしれない。
「湯元さんとは何かあったの?」
「断ったけどあきらめないと言われて……。クリスマスにも言ったけど、メルアド交換したのよ」
言ってしまってから「まずい」と思った言葉に、幸田さんがきっぱり言った。……クリスマス前にあった演奏会のとき、湯元さん僕の目の前で告白かましやがったからね!! 正直焦ったけどあの時の幸田さんには惚れ直したよ。面と向かって「お断りします」って……。僕はあのときすっごくドキドキしてたね。帰りに情けなくて自己嫌悪に陥ってたけど。
「さっきメールで一緒に出かけないかって来たから速攻で『鈴木くんと一緒なの』って返信したわ」
色々思い出していたら幸田さんの言葉に、一気に全身が寒くなった。え? なんでそうなるの?!
「ちょっ?! 何煽ってるの!」
「相手は鈴木くん家知らないから無問題」
「そういう問題じゃないから!!」
それって相手の人、気ぃ悪くしない? まぁ、湯元さんを苦手としている幸田さんの気持ちは解るし、僕も苦手だけどさぁ……。
僕がおもわず身悶えていると、来年までのこり1時間を切っていた。よし、頭を冷やすためにも神社に行こう。今から並べば新年になる頃にはお参りできる、はず。
「幸田さん、一緒に神社行かない?」
「二年参りね? いいわよ」
僕らはとりあえず、神社へ行く事にした。
のんびりと話しながら、神社へ行く。いつも歩いている道なのに、妙に緊張するのは幸田さんと2人だからだろうか……。ふと見た彼女の横顔はとても綺麗で、思わず見とれそうになりながらもため息を吐いたっけ。
「鈴木くんは、そういえば浮いた話ないよね」
「恋は、してるけどね」
幸田さんがそれとなく言えば、僕は少し俯きそうになるのを堪える。多分、幸田さんは僕の気持ちに気付いていないだろうなぁ。いやその、気付いて欲しい気持ちと、もうちょい待って欲しい気持ちがある。関係が壊れるのが怖い、というのが本音なんだよね。でも、湯元さんの一件ですっごく色々ともやもやしてしまう。
「鈴木くんの想い人って誰だろう? 会って見たいかも」
貴方だよ、と言えたらすっごくいいんだけれどもね。それに、相手の気持ちが見えないし。時々脈があるかな、とおもってもどうしても口から出ないんだよね。
「幸田さんが一番良く知ってると思うけど、案外解りづらいのかもしれないね」
自分自身のことについては、知らない事もある。ほら、『ジョハリの窓』ってあるじゃないか。それの他人が知っていて自分が知らない部分と、自分も他人も知らない部分。それがぱっ、と頭に思いついた。
「灯台下暗しってことかなぁ。まぁ、いいや。鈴木くんから紹介される日、待ってるよ」
……この様子だと僕の気持ちは、悟られていないかもしれない。
嬉しいような、悲しいような。
そんな話をしているうちに、神社に到着した。そこそこ大きい神社なので、既に多くの人が並んでいた。これは並んでいるうちに年を越すかもな、と思っていると屋台で焼き餅が売られていた。
「幸田さん、焼き餅買う? おいしそうだよ~」
「そうだねぇ。食べようか」
僕らは即決し、とりあえず食べる分だけ先に買って、鹿島さんへのお土産分を後で買う事にした。ほかほかの焼き餅はのびのびと伸びて、中のあんこもほかほかで、思わず舌をやけどしそうになった。
正直な事を言うと、僕はぐいぐいと押していく湯元さんに嫉妬している。恥ずかしい事かもしれないけど、自分の気持ちをちゃんと伝えている所は評価できる。ただ、押しが強すぎて幸田さんが引いてるのは間違いない。それを自覚した今、凄く胸が痛くなった。
「ホントはね。湯元さんの事、最初から眼中に無かったのよね」
不意に呟いた幸田さんの言葉に、僕は「えっ」と思わず声を漏らす。落ち着こうとこっそりため息を吐いてから、相槌を打つ。
「そうなんだ」
「だって、押しが強そうで苦手だったし。秋田先輩を彷彿とさせるから、そういうトコ」
その言葉に僕はなるほど、と頷いてしまった。
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