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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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ざ・ちくぜんに

筆者体験交えて書いたんですが、筑前煮って難しいです。

「うすい」

「なら食うな」


 ある日の昼間。僕は兄に筑前煮の味見を頼まれた。そして薄かったのでそう言ったらおでこをはたかれた。いや、味見してくれと言ったのはアナタですよお兄様。

「いや、いつもの癖で悪かった。嫁がつわりで動けないから、せめて好物の筑前煮を食わせてやりたくてさー。でも圧力鍋でやるとなんでか味が薄いんだよなー」

 結婚約3ヶ月目で義姉(年齢は僕と同じ歳)が、嬉しい事に身ごもったはいいが、悪阻がちょっと酷かった。匂いに敏感で、すぐ戻してしまうとの事。それなのに何故か筑前煮とか甘辛い物だと食べられるらしく、それで特に好物である筑前煮を兄が作っていたわけだが……。

「うすい」

「……マジでうすいな」

 薄味好きな僕としては、まぁ、いけなくもないんだが、濃い味付けが好きな兄にとってはかなり薄いらしい。しょうがないので、兄は


 一 晩 放 置 プ レ イ


という決断をした。

「……ガチ?」

「ガチ」

「……最近、気温高いよ?」

「冷蔵庫に移す」

「タッパーに入る?」

「そんな事もあろうかと新しく3個買った」

 僕の問いに、兄はよどみなく答える。そして、ちらりとテーブルを見ればなんか育児書とか、マタニティー用のお洋服とか、お守りとか置いてあった。兄はお嫁さんが妊娠したので嬉しさと不安で普段の冷静さを若干欠いているように思えた。そして、なんかねじ切れているような気がする。

「俺は悲しいかな社畜! 筆一本で生きれたらどんなに素晴らしいか!」

「うん、それさっきも聞いた」

「明日も会議でお偉いさんの太鼓持ちだよジーザス!」

「でもがんばらないと。お嫁さんと僕の甥か姪の為にも馬車馬のようにがんばらないと」

「その口が言うか自宅警備員」

「いいえ、自宅勤務ですお兄様」

「引きこもってパソコンに噛り付いてないで恋人ぐらい作れよ」

「大学時代、男友達と取っ組み合いの喧嘩してたらいちゃいちゃしていると勘違いされて彼女に別れを切り出された兄貴に言われたくない」

 何故こんな言い合いをしているんだ僕ら兄弟……。ほら、お嫁さんが冷たい眼で僕らを見ているじゃないか……。

 因みに義姉は妙にたぬきっぽい愛嬌がある小柄な人だ。くりくりとした眼がすっごく可愛くて、僕の好みだったわけだが兄に先を越されている現実が悔しい。まぁ、可愛いからよし。可愛いって正義だよね。

「あのっ、お2人とも喧嘩は止めてください……。ほ、ほら、あきらさんもまことさんも」

 はっきり言って、厳しい眼をしていた。うん、母は強しだね。というかすっごく冷たい眼しないでねお願いだから義弟ハートブレイクしそうだよ。

 僕らはそろって「すいません」と頭を下げた。


 とりあえず、義姉にも味見をしてもらったが「うすい」と言っていた。一体なにが原因なんだろう。僕が圧力鍋で筑前煮を作っても妙に味が薄いのだ。まぁ、冷めてきたら少しは味が調ってきた気がする。

(ちょっと研究しないといけないな)

 僕は筑前煮の鍋をにらみつけて、静かに肯いた。

「俺はリベンジするぞ弟ー!!」

 兄は鍋の前で叫んでいた。煩い、近所迷惑だ……。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

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