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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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パン・パン・パパパン♪

 近所のパン屋が改装に伴い一時閉店するとのことで、色々とパンを買いあさったとある日。僕はカレーパンに齧り付きながらお茶を飲んでいた。外は曇り空で、なんとなく外に出たくない。妙に気だるい。

(リニュアルしたらまた行こう。カレーパン美味しいし)

 コンビニでもたまに買ったりするけど、出来立てが一番美味しい気がする。あつあつのカレーパンをはふはふ言いながら食べるって、いいよね。ナンタイプとかもあるけど、オーソドックスに揚げた奴が、僕は好きだなぁ。

 はふはふ言いながら2個目を食べていると、チャイムがなった。だれだろう、と思っていると幸田さんで、部屋に招き入れると、パン入りの袋片手に笑っていた。

「これって、近くのパン屋の?」

「うん。鈴木君も買いに行ったんだね」

 幸田さんはそこのクリームパンが好きらしく、それで買いに行ったのだそうな。

「カスタードクリームのぼってり感が好きなの。あと、アップルパイも美味しいし、サンドイッチもここのは外れがないの! だから時々ランチ用に買ってたのよね。あと……」

 もしかしてパン派? と思えるほどパンについて語る幸田さん。そうとうそこのパンが気に入っているようだ。確かに僕も好きだけど、ごはんも好き……。

「幸田さん、立ち話もなんだし座って。紅茶かコーヒー、淹れようか?」

「ごめんね。あのお店のパン、好きだからつい熱くなっちゃって……」

 幸田さんはそう苦笑すると、椅子に座った。


 テーブルに焼きたてのパンが並び、紅茶と一緒に湯気を立てる。たまにはこんなランチもいいかもしれない。僕らはメロンパンとか、やきそばパンとかを頬張りながらおしゃべりを楽しんでいた。

「もうすぐ演奏会かぁ。クリスマス前の土曜日だっけ?」

「そうよ。あと少しよね……」

 僕らはそろってそう言いながらため息を吐く。それぞれ仕事もあるし演奏会の練習もあるし、ちょっとお疲れ気味かもしれないと思う。たまにはこういう時間も必要だよね。

「そうだ、クリスマスって予定空いてる?」

 不意に幸田さんにそう言われ、僕は頷く。兄夫婦には悪いけど、僕にも付き合いがあるのだ。それに、ちょっとぐらい夢みたっていいじゃない。好きな人とクリスマスを祝うって。

 幸田さんは申し訳無さそうに僕を見たけど、気にしなくていいよ。僕が好きでやってることだし。

「ん? なにか美味しい店でも予約取ったの?」

「実は、お店のキャンセルするの忘れたのよね……。秋田先輩と行くつもりで予約して。あの人が忙しかったから私の名前でやってたのよ」

「どこのお店? 代わりだろうが何だろうが、僕でよければいくけど」

 僕が問うと、幸田さんはそのお店の名前を告げ……僕は目をまるくした。というのも、とある有名ホテルでのディナーである。ドレスコードとかは聞かないけどそれなりにちゃんとした衣服を着ないと! 妙にドキドキしていると、幸田さんは「スーツで大丈夫だと思う」と言っていた。

「でも、僕でいいの?」

「鈴木くんじゃないと、頼めないもの。それに、気が置けないから安心できるし」

 その言葉に、僕は少しほだされる。でもね、幸田さん。僕だって一応男なんだ。その、警戒ぐらいしておいたほうがいいと思う。嫌われたくないから、理性をしっかり保っているけど……。

「楽しみにしてる、よ。本当は僕がちゃんと準備しておかなきゃいけないだろうけど……」

 僕がそう言うと、幸田さんはちょこっとだけ、苦笑した。


 でも、やきたてのパンみたいにふんわりとした笑顔は、見ていてほっこりするね。



読んでくださり、ありがとうございました。

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