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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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ドライカレーと学ラン

 演奏会の練習に仕事、年賀状製作、兄夫婦の手伝い、となにかと忙しい12月。僕はそんな合間に近所のカフェに入った。

 レトロなレンガ造り風の店内に、ほんのり暗い室内。厨房にいるのは、口下手そうに見える先輩。客の少ない昼さがりは彼一人でどうにかなるが、忙しい時間には店員さんもちょっと増える。だけど、僕は大体彼だけで回る時間帯に行くことが多かった。

「久しぶり。やってる?」

「ご覧のとおり」

 祖母の店を引き継いだ竹田先輩は、眠そうに見える顔でほんのりと笑いかける。そしてメニューとおしぼり、お水をおいてくれた。

「旭くん、疲れたときによく来てたからね。今日も、疲れてるんじゃないか」

「その通りですよ」

 竹田先輩の言葉に頷いていると、先輩は苦笑しながらメニューを下げる。僕が何を食べたいか、直ぐにわかったみたいだ。「直ぐに用意する」と言って厨房に引っ込むと、有線から聞こえるボサノバのメロディーだけが店に響いた。

 しばらく待っていると、カレー特有の香りと炒めたひき肉の匂いがした。ドライカレーだ。先輩はそれにミルクティーをつけて「ごゆっくり」と言ってくれた。


 同級生に竹田くんという明るい友人がいた。彼と先輩に連れられてこの店に来たのは、高校1年の頃。色々とうまく行かなくて落ち込んだ僕をひっぱってきて、お祖母さんが作ったドライカレーを食べさせてくれた。当時はまだお祖母さんが切り盛りしていて2人の孫を育てていた。

 そのドライカレーがとても美味しくて、僕はおかわりしたっけ。無言でかっこむ僕に苦笑しながら、お祖母さんは穏やかに言いながらミルクティーを入れてくれた。

「元気が出ないときは、まず美味しいものをおなか一杯食べなさい。そういうものよ? 食べられなくても、なにかお腹に入れるだけで違うわ」

 お祖母さんの言葉が嬉しくて、思わず泣いてしまった。そしたら、「泣くんじゃないよ」と笑われて、竹田兄弟にも笑われて。でも、嬉しかった。

 それがきっかけで、時々ここのドライカレーを食べに来ていた。他のメニューも食べていたけど、一番多いのはドライカレーだったっけ。

 竹田先輩は、高校を卒業後昼間はここで働き、夜は大学に通っていた。その後、無事大学を卒業してNPO法人での活動をしつつこのカフェを経営している。ドライカレーの味はまだまだお祖母さんに負けるけど、ミルクティーはもうお祖母さんの味になっていた。

「美味しい」

「無理しなくていい。まだ、祖母ばっちゃの味に届かないし」

 竹田先輩はそう言いながら苦笑する。

 輪切りにされたウインナーと、ひき肉、みじん切りの野菜がカレーソースに絡められていい味を出している。最近は簡単に作れる素が売っていたりするけど、やっぱりカレー粉と何かで作られたソースが美味しい。因みにカレー粉と何を使っているかは企業秘密なのだそうな。

「最近来なかったけど、明ちゃんとか元気?」

「ええ……」

「いい、なのにな」

「うん……」

 竹田先輩も、秋田先輩の一件を知っているらしい。どこか神妙な顔でミルクティーを飲みながら、竹田先輩はどこか遠い目をした。

「あいつさ。俺に結婚式の案内、送って来たんだよね。知らないって思ってたんだろよ。ほら」

 そう言いながら見せた葉書には、秋田先輩の名前と、知らない人の名前が並んでいた。僕はドライカレーを食べながらそれを見、竹田先輩にそれを返す。

「明ちゃんの事をなんだと思ってるんだ」

「本人、少し元気になってきてますよ」

「そりゃあ、旭くんのおかげなんじゃないか?」

 僕の言葉に、竹田先輩がどこかほっ、としたような顔で返す。なんか、僕をみて柔和な顔になっているのは何故?

 なんか見透かされているような気がしながらも、僕はドライカレーを食べる。でも、こうしていると、学ランを着た高校時代の僕や先輩方がご飯を食べている姿が、ぼんやりと思いだせるのだった。


「ところで、ドライカレーとカレーピラフってどう違うんですかね?」

「……つーか、ドライカレーとキーマカレーが紛らわしいんだよな……」



読んでくださり、ありがとうございます。


実を言うと、竹田先輩のモデルは某アニメの猫好き青年だったりします。

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