表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
37/79

口直しはサンドウィッチ

本日は、ちょいと遅めの時間に更新だよ!

 合コン会場のトイレ。僕は、幸田さんがトイレから出るのを待った。

「ごめん、鈴木くん。私……」

「大丈夫そうじゃないね。悪酔いした?」

 疲れた顔の幸田さんがしょんぼりした様子でそういい、僕がハンカチを貸すとそれで口元を覆った。とりあえず幹事の2人には「体調を崩した」と報告し、先に帰らせてもらう事にした。会費は聞いていた分を2人分に迷惑をかけたので少し色つけて湯元さんに渡した。

「皆さん、ご迷惑おかけします。楽しんでいってください」

 それだけ言って頭を下げ、幸田さんと一緒に店を出る。妙に湯元さんの視線が気になったが、僕は気にならなかった。そして、なるだけ早く合コン会場から遠ざかった。


 落ち着いたところで、僕らは大手コーヒーチェーン店に入っていた。僕は泡立てたホットミルク、幸田さんはチャイを飲んでお互い深いため息を吐いていた。

「幸田さん、お酒に弱かったけどあんなにすぐ酔ったっけ?」

「人の事を悪く言うものじゃないけど、湯元さんが妙にスマートだけどがっついてくるような感じがして、嫌で……」

 幸田さんにロック・オン! って感じだったね、湯元さん。もしかして、笹山さんが言っていた人って湯元さんで合ってる? やっぱ合ってるのかなぁ。今後が凄く心配。

「米納さん、やたら湯元さんをよいしょしてたけど何かあるのかね」

「何を考えているのか興味もないしわからない」

 僕らはそんなことを言っていて……急におなかが空いた。そういえば、あまり食べていなかったかもしれない。

「なんか食べていく?」

「うん。気分的にサンドウィッチがいい」

 幸田さんはきついらしく、僕はリクエストをきいてカウンターへむかった。硝子ケースの中には野菜がタップリなもの、卵のもの、スモークチキンが入っているもの、ローストビーフ入りのものなど色々並んでいる。僕は適当にいくつか選び、お金を払った。

「鈴木くん、悪いわね。やっと食欲が出てきたわ」

「そう言うと思ったよ。食べる?」

 僕がサンドウィッチを取り出すと、幸田さんは喜んで卵のサラダが入ったものを選んだ。そういえば、高校時代、お昼ご飯によく食べていたっけ。僕はスモークサーモン入りの物を手に取り、噛り付いた。タマネギと一緒にマリネになっていて、レタスやチーズと一緒に茶色いパン(ライ麦でできているっぽい)に収まったスモークサーモンは、何処となくすまし顔したお嬢さん、という雰囲気がして思わず苦笑したけれど、舌に広がる酸味は心の中のもやもやを少しだけ押し流してくれた。

「やっぱり、たまごサンドは美味しいな。でも、ここのは初めて食べたわ。会社の近くにもあるけど、あまり行かないのよね」

「普段、お昼とかどうしてるの?」

 スモークチキンと野菜に濃厚なドレッシングが掛かったサンドウィッチを口にしつつ聞いてみると、彼女は肩を竦めて

「普段はコンビニで買うか、抜いているかなのよね。朝ごはんは食べるようにしているけど。忙しいとつい昼休みを昼寝に使っちゃうのよ」

「それ、身体に毒だよ。せめて何か食べないと」

 僕が突っ込むと、幸田さんは「そうよね」と自重の笑みを浮かべ相槌を打つ。だけどその横顔があまりにも悲しげで、もうちょっと柔らかい言葉を使うべきだったか、と反省する。

「……結婚資金とか、ためようと思って頑張ってたのにね。それにあの人だって『仕事をする君はカッコいいよ』って言ってくれた。だから、がんばってこれたのに。今は、なんか……義務感とか責任感だけでやってるような感じかな……」

「それじゃあさ、他にやりたいことって、ある?」

 しょんぼりと言う幸田さんに、僕は自然とそんな事を聞いていて……、幸田さんは、「えっ?」と言葉を失っていた。


 ……僕は、なにかすっごくまずい事を言ってしまったのではないだろうか……?


 口の中に苦味が広がる。幸田さんの両目に涙が溢れて、静かに毀れ出した。

「ごめん、幸田さん! 悪気はなかったんだ……」

「ううん、いいのよ鈴木くん。私、すごく大事なこと忘れてた。確かに生計を立てなきゃいけないのはわかるんだけど、そうよね、やりたい事よね。うん、私、それを今、忘れてたの。音楽が好きなはずなのに、思い出せなかった……」

 幸田さんは、泣きながら笑った。今度は自嘲じゃない。心からの笑顔だった。なんか少しホッとしたような感じがする。もしかしたら心の余裕が無かったのかもしれないな。

 幸田さんが大切な物を思い出した、というほどすっきりした笑顔を見せたとき、僕も心から安堵した。

「今は、サンドウィッチ食べよう?」

「うん!」

 僕と幸田さんはそんな事を言い合いながらサンドウィッチを食べ、普段のように他愛も無い会話を楽しんだ。そんなちょっとした時間が僕は嬉しくて、凄く居心地が良かった。


 うん、多分、恐らく……僕は幸田さんに恋をしている。

 それをはっきりと自覚しながら。


 

読んでくださり、ありがとうございました。

アレ? サンドウィッチの描写が……描写が……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ