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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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風邪とポトフ(食事編)

野郎3人がポトフ食べるだけ、という……。


(前回のあらすじ)

・風邪を引いた兎本くん

・後輩のためにポトフ作ったよ!

・……土砂降りで帰りづらいよ。


* * * *


「う~……ん?」

「あ、起きたか」

 雨が止まない中、兎本くんが起きてきた。丁度僕らは食事の準備をしていたところだった。


 えーっと、ポトフが完成したのが午後5時半ごろ。それから1時間ぐらい僕と折舘くんは一狩り行っていたけど頃合がよかったので食事にする事にしたのだ。

「あれ? 鈴木先輩何してるんですか」

「見舞いに来てくれたついでにポトフを作ってくれたんだよ」

 眠そうな目で首を傾げる兎本くんに折舘くんが教えている間にバターロールを焼く。オーブントースターがあるっていいねぇ。これ、ホント便利。

 因みにバターロールはとある大きなマーケットでの購入だそうな。同じ寮の仲間と月1で買い物に出かけてシェアしてるんだって。まぁ、男子学生が20人もいればねぇ。

「わぁ、おいしそう! 鈴木先輩って相変わらず料理上手ですよね!」

「今回は折舘くんと一緒に作ったんだ。兎本くん、食欲のほうは大丈夫層だし、早速食べる?」

 僕の問いに兎本くんは「はい」と速攻で返事を返す。折舘くんと僕は思わず苦笑して、彼の分の配膳もした。


「まだ熱っぽいけど今週末おとなしくしておけばいいんじゃね?」

 折舘くんが兎本くんの顔色を見て頷きつつ言う。

「そうそう。病院からもらった薬をちゃんと飲んでね」

 僕も相槌を打ちつつそう言うと、兎本くんは苦笑しながら頷く。多分、聞いてくれる筈。まぁ、この子、熱中している事に走ると寝るの忘れちゃうタイプだしなぁ……。ま、どんな状態でも食べる事は忘れないけど。

「ポトフ、作ってくれるなんて……。嬉しいですよ。なんか無性に食べたくなって……」

 ちょっとはにかんだ兎本くん。その顔が普段よりちょっと幼く見えて僕はなんだか「弟がいたらこんな感じなのかな」と思ってしまった。

「まぁ、早く食べようぜ」

 折舘くんに言われ、僕らは「いただきます」と言った。


 琥珀色のスープに、ほっくほくの野菜。ダイコンはほんのりとスープの色に染まってて、口に入れたらじわりとコンソメの味が染み渡る。キャベツはとろっとろで、スープに解れる様が実に食欲をそそる。忘れちゃいけないジャガイモのほっくり感もいいよね。ベーコンの舌触りと風味も霞んではいない。

 かるく焼いたバターロールを千切ってスープにちょっと浸すとこれがまたじゅわっ、とスープの旨みを吸ってくれて美味しい。野菜の旨みたっぷりで、体の芯から温まれるって実にいいね~。だからポトフって大好き!

「で、なんでポトフが食べたくなったんだ?」

 折舘くんがなんとなく問いかけると、兎本くんはちょっとだけ照れた顔をした。

「うん、実は……合コンに出てってお願いしてきた子が、お詫びに作ってくれる約束だったんだ。だけどその子が体調崩しちゃって」

 偶然にも兎本くんも扁桃腺がはれてしまい、病院でお互い苦笑しあったそうな。あらら。

「そういう事か。で、お前、ポトフ好きだったっけ?」

 折舘くんが不思議に思って首を傾げると、兎本くんがこんどは顔を真っ赤にして一冊の本を取り出した。

「小さいときにお袋がくれた絵本の影響。初めてポトフ食べたときはホント衝撃的だった。というか、初めてのコンソメがポトフだったんですよ」

 まぁ、ご実家は彼のお爺さんの好みに合わせ和食をよく食べているらしい。その反動なのかは不明だが、兎本くんは洋食や中華料理をよく食べたがる。

 なんだか恥ずかしくて言えなかった、と兎本くんはもじもじして言ったけど、それも思い出の味なんだし、恥ずかしがる事は無いと思うな。

「俺んちはあんましこういうのを作らなかったし、俺も洒落た料理は妙に気後れしちまって……。でも、案外簡単だし、今後も作ろうかな」

 折舘くんはポトフを食べつつ穏やかに笑って頷いた。


 食事を終え、兎本くんは薬を飲んでまた眠ってしまった。僕と折舘くんは雨の音を聞きながらまた一狩りしていた。

「雨、止まないね。今外に出ても風邪引きそうだし、今日はココに泊まろうかな」

「そうしたほうがいいぜ、先輩」

 僕がぼんやりしたままそう言うと、折舘くんが毛布と枕を持って来てくれた。ベッドを使っていい、と言ってくれたがそこは丁重に断る。僕はごろっ、と横になれる場所があればいい。

「ありがどーごじ、先輩」

「ん?」

 折舘くんに礼を言われ、僕は不思議な気持ちになる。いや、彼が珍しく津軽弁になっているからもあるだろうけど。彼はちょっとだけ真面目な顔で言った。

「秋弥の奴、ちょっと元気になったかもしれねぇ。……やっぱ、先輩の料理のお陰だ」

「ううん、違うよ」

 僕は笑顔で首を振る。今回は違う。僕は作り方を教えただけだと思うし。

「折舘くんが気遣う気持ちが、薬になったんじゃない?」

 僕の言葉に、折舘くんは不思議そうに首を捻り、ややあって笑い出す。なんかおかしくなって、僕もつられて笑う。

「先輩、なんかそれ、かっこつけすぎじゃね?」

「それ言わないでよ。僕が一番そう思ったんだからさ」

 声を押さえ気味にしながら、僕らはしばらく笑い合った。その声は幸い雨のお陰で隠されて(?)兎本くんには聞こえていなかったみたいだけど。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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