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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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イワシ煮付けて

 11月も後半に差し掛かったある日。その日は仕事も休みで、なんとなく和食が食べたい気分になっていた。夕食を考えながら散歩していた。その時立ち寄ったスーパーで大きなイワシが安かった。値引きシールが張ってあって、ちょうど良かったかな。

(おっ! これいいかんじじゃん)

 手を伸ばしたところで、別の手が伸びてくる。えっ? 誰?! とか思っているとその人と目が合った。ガタイのいい男の人で、年齢は僕より随分上。威圧的な目をした人だった。

「「……」」

 僕らはしばし無言だったけど、僕は手を離した。イワシ、他にも探してみようって思って。そしたらその男の人は僕へとそれを渡してきた。

「え?」

「若者は、しっかり食べなさい。私は別のを探す」

「でも……」

「遠慮するな。それに、君の方が早かったかもしらんし」

 男の人はそう言うと一礼してその場を離れる。僕はお礼を言ってそのパックを籠に入れた。


 会計を済ませて帰っていると、スーパーで会った男の人と出くわした。僕の家と同じ方向なんだな、と思いながら歩いていたら「君」と呼び止められた。

「はい? あぁ、あの時の……」

「見覚えあると思ったら、幸田君の……。いつも幸田君が世話になっている」

 あぁ、道理で見覚えがあった。幸田さんにお見合いを持ちかけた人か。

「鈴木といいます。こちらこそ幸田さんがお世話になっています」

 友達の上司と会うとか、あんまりないんだよなぁ。とりあえず幸田さんとは恋人のふりしてたし、こんな対応でいいのかな……。これで「付き合っていないな」とか思われたら……。

 男性は、篠山ささやまだと名乗って、僕にぼそっ、とこう言った。

「幸田君に見合いを勧めたが断られてね。どんな人が彼女のハートを射止めたのか見てみたくなってね」

「そうでしたか……」

 なんでそんなことを気にするんだろ。早く行きたいな、と思いつつ僕は「それでは」と一礼してその場を離れようとしたけど、呼び止められた。

「君、私の甥に気をつけたまえ。あいつは少し……厄介かもしらん」

 篠山さんはそれだけいうと、静かに立ち去った。一体なんだったんだ?


 帰宅後、僕はちょっと早めだけど夕食を作る事に。ご飯も炊いて、味噌汁も作って、イワシもお煮つけに。酒50ccに砂糖と醤油、味醂を加えてショウガの輪切りも投入。煮立ったところでイワシを入れて。時々煮汁をかけながら煮るのがコツ。

 圧力鍋でやるときは煮汁に水を加えないと焦げ付くかも……。圧力鍋で魚を煮付けるのは得意じゃないから、こっちは練習中。このイワシはけっこう丸々太っていて大きいから5分ぐらい圧力を掛けたら骨までもりもりいけるかも。

 出来上がったらちょっと水を加えて、あらかじめ下茹でしていたダイコンを入れて、軽く煮付けて味を染ませて添えに。……上手く沁みるときとそうでないときがあるんだよね……。


 ショウガと醤油のいいにおいに思わず顔が緩む。皿に盛り付けて、配膳をしていると電話が鳴った。不思議に思っていると相手は幸田さんで、妙に悩んでいるようだった。

「あれ? どしたの幸田さん」

「鈴木君、ちょっと今、時間ある?」

「うん」

 僕は不思議に思いながら頷き、話を聞こうとする。と、幸田さんは少し申し訳無さそうにこんな事を言ってくる。

「12月の始めに、合コンをする事になっていたのよね。ちょっと面倒だけど私も借り出される事になっちゃって」

(合コン?)

 何でか、僕の胸の中がもやもやする。でも、幸田さんはさらに申し訳無さそうに言葉を紡ぐ。

「それでね……男性の方の参加者、急に1人欠員でちゃって。鈴木君、来てくれない?」

 その言葉に、思わず「ふぇ?」って変な声を出してしまった……。


 僕、合コンって行った事、無いんだけど……。






読んで下さりありがとうございます。

イワシから何故合コンか。一応複線張ってるけどね……。

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