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ウマシカテ・ラボラトリィ ―食いしん坊の閑人閑話―  作者: 菊華 伴(旧:白夜 風零)
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玉子焼き占い

 玉子焼き。

 僕ら兄弟の好物の1つ。


 卵を2個ほど割って、砂糖小さじ1(時に山盛り)に対し塩少々。時々マヨネーズを少し入れたり、牛乳を入れたりする。まぁ、今回はそんな事をしない。

 よく箸で解きほぐし、熱した四角いフライパンに油を引いて、キッチンペーパーで余分な油をふき取る。そして、卵液を流し込み、熱が通った所で淵を箸でなぞって離す。あとは巻いて、液流して~の繰り返し。

 キレイに玉子焼きが巻けたときは、いいことが起こる。それが、いつの間にか僕のジンクスになっていた。高校時代から大学時代に掛けて、基本お弁当は自分で作っていたから、ほぼ毎日玉子焼きを作っていたけど……大体、そうだった。

 たとえば、好きな女の子といい感じになれたり、抜き打ちテスト対策が出来ていたり、欲しかった物が安く手に入ったり。そんな感じ。

 まぁ、玉子焼きがきれいに巻けただけでもいい気分になるんだけどね。少し狐色の部分が出来た玉子焼きが一番好きかな~。


 そいでもって、現在。会社でお弁当を広げているんだけど……めっさ同僚に中身を見られている……。因みにこの同僚は、同じ大学出身の真田さんである。

「……いいな、鈴木ちゃーん。こーんな美味しそうなお弁当、作ってくれる人がいてさー」

「真田さんや。それ、僕に恋人がいないってわかって言ってません? それに貴方、奥さんいるでしょ」

 僕がつっこむと真田さんは苦笑する。まぁ、からかうのが好きだし、別に気にしては居ない。

「んー、しっかし上手に作るよね~。この卵焼きとっーてもおーいしー♪」

「ちょっ?! 人の昼ごはんとらないで下さいよ!」

 あ、言っている傍から玉子焼きを掻っ攫われた。あー、この人僕の玉子焼き好物にしてるんだよね……。大学時代もよく食べられたわ……。

 真田さんとは色々あって僕と(恋愛的な意味で)付き合ってるとか疑惑が持たれたが、僕に彼女が居た事で色々うやむやになった。それに真田さんには大学時代から付き合っている彼女さんがいる。それが、通称『奥さん』である。

「……真田さん。奥さんにお弁当作ってもらったら?」

 真田さんに料理させるとちょっと怖い。恐る恐る作るから包丁の持ち方が危ないんだよな……。

「奥さん? あぁ、彼女のこーとーね。琴ちゃん、料理上手だけど忙しいーからねぇー」

 真田さんの恋人さんは、なんでも医療関係のお仕事をしているようだ。それは忙しいよね。そんな彼女の労を労うべく、最近家事を勉強しなおしているのだと。

「料理も練習中なんだよねー。男子厨房に入るべからずーなんて時代錯誤だよねー。料理ぐらいできないとー」

「……真田さん、不器用だけど大丈夫?」

 僕が恐る恐る問うと……真田さんは、僕の弁当を掻っ攫った!

「ちょっ?!」

「そんなこと言うーなら全部たーべちゃうもんねー」

 そう言って抱え込んで僕の弁当をかっこむ真田さん。あなた、さっき自分の弁当食ったでしょ!? この人、僕より良く食べるんだよね……。体格は僕と変わらないけど、真田さんの身長は190センチほど。足の怪我をするまではバスケットをしていたらしい。

 ってそう言っている場合じゃない! 弁当を取りかえさないと!! あ、でも真田さん幸せそうにボクの弁当をかっ込んでる……。

「僕の弁当……」

「まーったく、俺をなーんだと思ってんだよー。確かに不器用だけど、ちーっとは上達したんだーぞ」

 そういって、真田さんは小さな弁当箱をとりだして僕に渡した。中身は玉子焼き。ちょっとこげているけど、巻き方もあまかったけど、それはとても美味しそうに見えた。

 一口食べると、甘かった。優しい甘さがした。砂糖の量は絶妙なところだ。焼きが甘くて汁が出ているってこともない。

「美味しい……」

「ホント?! やーったぁ! これで琴ちゃん喜んでくーれるかーなー?」

 なんか嬉しそうな真田さんを見ていたら、さっきの事がどうでもよくなった。けど、なんで玉子焼きを持ってきていたんだろう……? 不思議に思って聞いてみると、真田さんがちょっと頬を赤くした。

「んー、琴ちゃんの職場、ここの近くでねー。今日、お弁当を彼女に作ったーんだ。で、玉子焼きだけあまっちゃってーね?」

「今日食べたお弁当も?」

「うん。俺がつくったんだ」

 そうだったのか。あまり見ていなかったから気付かなかったが……。なんでだろう、真田さんも成長しているんだなぁ、と心から実感した。

「……鈴木ちゃん、いまものごっつ失礼なこと考えなかった?」

「いいえ」

 僕は真田さんのジト目に首を振って「今度何か作ってくださいよ」なんて言ってしまうのだった。


 友達の意外な一面を知ることが出来たし、美味しい玉子焼きも食べられた。まぁ、お弁当を食べられたけれども、これが今日の幸運なのかもしれない。そう思っていたら、仕事の帰り、真田さんが僕にビニール袋を手渡した。

「……これは?」

「さっきのお詫びだよー」

「昼の?」

 僕の言葉に真田さんは頷く。中を見ると、幾つかのお菓子が入っていて、その中には入手困難と言われている某コンビニのエッグタルトもあった。

「ほら、鈴木ちゃん、これ食べたがってたーでしょ? 偶然見つけたから」

 そう笑う真田さんの顔は、妙に楽しそうだった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

……登場人物紹介ぐらい、やるべきだろうか……。

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