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§8 海狼出現

「さあまだ終わってないぞ。

 あいつらを拘束して、喋れないトトキちゃんの代わりに洗いざらい吐いてもらう」

 部長が銃を拾い上げ、結衣、トトキに避難を、藤也と海斗にロープの調達を指示している最中に、




「……くくく」

「あ?」

 デブが不敵に笑った。

「ふふふ」

 呼応するかのように、ノッポも笑った。

 一同は不気味さを感じて、後ずさる。

 二人はゆっくり立ち上がる。

「あっはっは」「ははは」「あはは」「はっはっは!」

 森の中で、二人の笑い声が響きあう。

 輪唱、合唱、不協和音。

 合わせているのかズラしているのか、とにかくやつらは笑いに笑った。

 その声は木霊し、二人しか居ないはずなのに、まるでそれ以上の人数が声をあげているように聞こえる。

「おい気をつけろ!

 何をするかわからんぞ」

 部長がそう警告した。

 藤也達は再び身構えた。

 それぞれの武器を構えなおして、間合いを取る。



「バカだねぇ、ははは、ほんとに君たち、バカだねぇ」



 デブが笑い声の合間に言った。

 ところでさっきから、ノッポがなんにも言わないけどそこんとこいいのか?



 仲間の加勢を受けて余裕が出来たのか、藤也はふと、そんなことを考えていた。




「僕は、ちょっと、怒ったよ」

 デブがそう綴った瞬間、その余裕も穴のあいた風船の如く吹っ飛んだ。

 ぼぅっとデブの顔中に茶色い毛が生えた。

 かと思えば鼻が突きでて真っ黒に変化し、四つん這いになって腕、いや、すでに前足と呼んだ方がいいそれで何かを確認するように地を抉った。

 恐ろしい事に、二人の神父が、ジキル先生も顔負けの変身でたちまち茶色い狼になってしまったのだ。

 神父服はバリバリ破け、中で付けていただろう青い宝石のペンダントだけが首からぶらさがっている。



 ほとんど顔ばかりに注意を払っていたため、二メートル近い、闘牛のような体格をしてやがることに気づいて酷く驚いた。


 そんなのが二匹。




「まいったな、こりゃ」

「オォォォォン!」

 部長のボヤキを遮り、デブ神父だった狼が吠えた。

 藤也の血の気が引いた。

 これはさすがにまずい。

 銃よりヤバい気がする。




「哀れ、女の子に関わったがばかりに、俺たち平均一七の若い命の灯火はめでたく天へと召され、明日の朝刊とニュースバラエティを賑わす格好のお題目となっちまうのかね」

 部長がそんな感じの絶望感を煽ってくる中、敵はわっと飛びかかった。




「「「ひぃぃーっ!」」」



 蜘蛛の子を散らすように、一同は逃げる。

「なにあれなにあれっ!

 どうなってんの!?」

 と、海斗。

「俺が知るかよッ!」

 と、藤也。

「いや、マジでこんな展開になるとは、

 ……来るぞッ!!」




 迫る影に逃走を諦め、攻撃体勢に入る。

 だがその一匹は軽々と三人を飛び越えて、後方の女性陣へと向かっていった。




「しまったッ!」

「きゃあああああっ!!」

 結衣の絶叫が聞こえる。

 トトキだって叫んでいるはずだ。




「くっそぉぉぉっ!!」



 藤也が駆け出そうとすると、もう一匹の大狼が立ちはだかった。



「天野ッ!」

「了解ッ!」



 部長と海斗が銃撃を始める。部長に至っては奪取した〝ホンモノ〟だ。



 ドギュンっと銃声が耳をつんざく。

 銃撃を受け、狼は怯んだ。だが、実弾を受けても致命傷にならないばかりか、みるみるうちに傷口が塞がっていく。



「うわん、効いてないよ部長っ!」

「ダメージは受けてる。行け、小高ッ!!」

 二人の援護を受け、藤也は走り出す。

 正面突破を試みる藤也に、狼の鋭い爪が襲いかかる。

 再び銃声。

 相手の前足に直撃、鮮血が飛び散る。

 その隙に敵を潜り抜け、藤也は女性たちの元へと急いだ。



 結衣に手を引かれ、トトキが走っている。狼が追撃する。

 トトキはあのドレスのせいでずいぶん走りづらそうだ。




 くそ、逃げる身ならなんであんなドレスを着てるんだよッ!?

 そのトトキが転倒した。襲いかかる狼とトトキの間に、結衣が割って入る。



「ワオォォォォーーーーン!!」

 遠吠えを一つ上げ、狼は大きな牙を結衣に向けた。



「やめろぉぉぉッ!!」

 藤也は渡されたモデルガンを乱射しながら急ぐ。

 弾丸が届いていないのか、効果が無いだけなのか。

 狼は藤也の射撃を意に介さず、無情にも結衣に喰らい付き、







「ケェェーー…………ーーン」





 それが叶わず、狼はひっくり返った。

 横這いになり、動かなくなる。

 ……どうしたんだ? 疑問に思いながら、藤也が駆け寄る。




「先輩、遅いッ!」

「すまん。怪我はないか?」

 二人とも無事のようだ。

 一方狼は泡を吹いて白目で気絶している。時折、ぴくぴくと脈動していた。

「どうやってやっつけた?」

 尋ねると、結衣は茶色い小瓶を藤也に突き付けた。

 夏のアウトドアの必需品、虫さされ液。主成分は嗅ぐとつんとするアンモニアだ。

 咄嗟にこれをぶちまけたらしい。

 あれを目や鼻に塗ると悶絶するからな……犬の嗅覚って人間の何倍だっけ?

 そりゃあ、気絶もするわ。

「お前すげぇな」

「気合とか覚悟だけで、あんまり役に立たない先輩とは違います」



 うわー。本気で凹むわー。



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