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§27 現れた〝台風〟


 まさしく渦中に飛びこんだ藤也達を、激しい回転が襲った。



 藤也のバリアで耐えきり、一同はその奥地に辿りつく。



「うきゅー……気持ち悪いよぉ……」

 海斗がぎゅうっと唸る。



「乗り物だとしたら最悪ですね」


 結衣はかぶりを振り、


「百円ガチャの苦悩がわかりました」

 藤也もクラクラする頭を押さえながら、辺りを見回した。

 うす暗く、異様に広い空間だった。

 壁から壁までは体育館ほどか。

 隅に金の装飾を施した真っ赤なじゅうたんに、真っ白な支柱がずらりと並んでいる。

 天井は見えない。藤也達の向かう先も、背後もどこまで続いているのか判らなかった。



 部長の繋いだ糸が、先に続いている。

 藤也達はそれを辿って先に進んだ。



「まるでギリシャかどこかの神殿だな」

「あながち間違いではない」

 藤也の感想に、宇治金時が頷いた。

「おそらく、アトランティスの神殿だ」

 歩きながら、宇治金時が説明する。



「アトランティスって、あの海に沈んだ伝説の大陸ですか?」

「そうだ。……ああ、やっと黒幕の正体が掴めて来たぞ」

 宇治金時はうんうん頷く。

 一人で納得するなよ。

「古代文明のアトランティスにはポセイドンと人間の混血が暮らしていた」

「デミ・ゴット(半神半人)って奴ですね」

 結衣が相槌を打つ。


 よく知ってるよなぁ。藤也はちょっと感心してしまった。



「その通りだ。彼らは大陸沈没と共に途絶えたが、何人かはポセイドンの庇護で助かったと聞く。だが、人間でも神でもない彼らの正確な人数は誰も把握していない」

「つまり、デミ・ゴットたちは事件の容疑者としてノーマークだったって事ですか」



「盲点だった。……ただ、なぜ岐阜の山の中にここへのゲートが繋がっているのか、敵が何をするつもりかは未だわからんが」



「ねぇー、あれと関係あるのかなぁー?」

 海斗が先を示す。

 巨大で真っ白な球体が、玉座のようなゴージャスな台にどでんと乗っかっている。

 近付けば近付くほどそのデカさに驚かされる。

 すぐ側に着くころには、玉座は藤也の身長ほど、球体に至ってはその三倍ほどの大きさであることがわかった。



「なんだろこれ……卵?」

 藤也が宇治金時に目線をやると、彼女も首を傾げた。

「妙にリアルですから、飾りではないと思いますけど」

 結衣が訝りながらその周囲を回る。

「えー、でもこんなでっかい卵ってあるのかなぁ」

 海斗は玉座によじ登り、

「あ、でもほんとだ、ちょっと動いてるよこれー」

 ペタペタと警戒心も無しに触りまくった。

「おいおい降りてこいよ! 危ないぞ!」

「だいじょーぶだよー、……わっ!?」

 さらによじ登ろうとするが、海斗はつるんと滑り、頭から落下してきた。

 藤也は泡沫でクッションを用意し、脳天激突を防いでやる。



「えへへー、ダメでした♪」

「まったく、敵陣で緊張感のない……」

 舌を出して誤魔化す海斗に、宇治金時が呆れた声を出す。

「でも海斗、一つだけ判っちゃったよ。

 あれはね、ウミヘビの卵だよ」

「ウミヘビ?」

 藤也が聞き直すと、海斗は強く頷いた。

「うん、間違いないよ。

 海の中で触ったことあるもん」

「巨大なウミヘビ……?

 シー・サーペントの類か?」

 宇治金時がなにやら良く分からない専門用語を漏らしながらうんうんうなり始めた。



「シー・サーペント……巨大台風……内陸地にゲートを繋ぐ……。

 ……――まさか!」



 再びよじ登ろうとする海斗を引きずり降ろして、宇治金時は叫んだ。

「それを刺激するな!

 そいつはリヴァイアサンの卵だ!」

「リヴァイアさん? さん付けとはえらく親近感があるな……」

「なんかのゲームのボスキャラじゃなかったっけ?」

 藤也と海斗の惚けた反応に、結衣は深々とため息をついた。



「シー・サーペントはウミヘビの化け物で、リヴァイアサンは聖書にも載っている怪物です。

 終末思想のイメージが強いですね」

「霧崎ってさぁ、そういうのどこで勉強してくるの?」

 尋ねると、またため息をつかれた。

 とっくに慣れてる藤也は気にせず続ける。

「終末思想ってあれだろ?

 世界の終わりって奴。

 こいつが孵化すると大暴れして世界が終るって事?」

「少し違う。

 リヴァイアサンと、ベヒモスが出会ったときにその現象が始まると言われている」

「よくわからんが……じゃあ出てくる前にぶっ壊しちまおうぜ」

「馬鹿を言うな。

リヴァイアサンは〝最強の生物〟だぞ。

 鱗にはどんな武器も通用しないと言われている。

 その卵もまた然りだ」

 なんだその中二病小説の主人公みたいな肩書とスペックは。

 じゃあ核ミサイルでもだめなのかよと聞くと、

「知るか」

 とあしらわれた。まあ、核ミサイルなんて持ってないしね。



「リヴァイアサンは自然には孵化しない。

 今は刺激しない事が一番だ」

 と、宇治金時は念を押すように言い、




「……よもやこれを孵化させるために姫様の力を奪ったのだろうか?」

「確か、宇治金時もクラーケンなんてトンデモ生物を使ってましたよね?」

 そこに結衣が口をはさむ。

「そういうのって飼いならしてどうこうできるんですか?」

「まさか。私のクラーケンは〝名前〟と〝姿〟を象った紛い物だ。

 確かにここいらで使役できるのは因幡の一族ぐらいの代物だが、所詮偽物は偽物。

 本物のクラーケンやリヴァイアサンなんて我々の手に負えるものじゃない。

 スキュラやマーマンとは違うんだぞ!」


 違いがよくわかんねーよ。


「じゃあ、意図的に〝世界を終わらせる〟ためにこれを孵化させたい。

 そういうことになりますよね」

「あるいはな」

「え、ちょっとまってくれよ」

 藤也が挙手をして、



「仮にリヴァイアさんが生まれたとして、もう一匹のナントカが居ないと世界の終わりにはならないんだろ?」

「ベヒモスならすぐそばに居る」

「……え、どこに?」

 宇治金時はちょんちょんと天井を示した。

「岐阜だ」

「「「ぎふぅ!?」」」

「正確にはお前たちのキャンプがある山そのものだ」



「「「はああああああああああ!?」」」



 さすがにこれには声をそろえて仰天した。

「国産みの頃に突然やってきて、居座ったらしい。

 特に害もないから野放しにしているうちに、いつの間にか山になっていたそうだ」

「え、じゃあなに、俺達この三日間デカイ怪物の上で暮らしてたってこと?」

「そういうことになる」

 なんという衝撃事実。

「平気で焚火してたよ……火傷とかしてないかな」

「藤也……ペグ、抜いて来た方がいいんじゃない?」

「それ以前に銃を撃ったり飛びまわったり大暴れしていた方が問題な気がします」




「古来からあの山で多くの人間が生活を営んできたのだぞ。

 たかだか三日寝泊まりしたのお前達が妙な心配をしてどうする」

 いやそりゃそうなんだろうけどさ……。

「とにかく、条件的なものは揃った。

 後は敵の最終目的だけだが……」




「当然、我らがアトランティスの再建だ」



 宇治金時を遮り、一人の男がやってくる。

 これまた、古代ギリシャ風の格好と言えばいいのだろうか?

 トーガという、片方の肩を露出したカーテンの様な服装で、頭には草木の冠を被っている。

 薄手の服装から見える体は屈強で、まるでボディ・ビルダーのようだった。



「何者だ!?」

 宇治金時が剣を引き抜き、突き付ける。



「名は捨てた。ポセイドンの血とアトランティスを継ぐ、デミ・ゴットの一人だ」

 男は厳かに言った。

 それを聞いた結衣はケッ、と吐き捨てる様に息を吐き、



「没個性風吹かせてかっこいいつもりなんですか? 文句付けにくくなるんで、ちゃんと名前を名乗ってください」



 ボスキャラを前にして容赦ない毒を飛ばした。

「きっと、結衣ちゃんの犬歯には毒袋が付いているんだよ」

 海斗が言った。

 敵を見つけると、毒蛇よろしく吹き付ける生態系なんだろう。

 まあ、確かに呼びにくいからボスキャラにはちゃんと名乗ってほしいが。

「ならば〝ハリケーン〟と呼ぶがいい。

 我々の起こす奇跡の風の名だ。

 我々は……」



「あー、聞きたくないです台風さん」

 結衣が耳を塞いで、



「どうせ今の世の中は穢れてるー、とか過去の繁栄が―、とか、そういう愚にもつかない中学生みたいな理屈で世界を沈没させたいんでしょ?」




「ぐ……愚にもつかない……?」




 言い淀む台風さん。図星のようだ。

「そういうテンプレートの使命感で思考停止した話に興味はありませんから」

「おいおい、あんまりいつもの調子で怒らせるなよ?」

 心配になった藤也が耳打ちすると、

「どうせ、あの手合いに交渉の余地は無いんです。

 駄目元で要求をまくしたてましょう」

 そう言って敵に向き直り、

「台風さん。トトキと彼女の力と、クリスタルを一分以内に返してください。

 ……なにしてるんですか?

 さあ、ほら、早く!」




「恐ろしい女だ」



 宇治金時が呟く。

 敵より味方のが怖いってのがすげぇ。

 もうあいつ一人でいいんじゃないかな?



「ぐぬぅ――ッ!」



 怒り心頭、一瞬顔を真っ赤にした逆転タイフーンだったが、深呼吸をして、

「まあ、かまうまい。所詮君達には理想は理解できないのだろう。

 ……それから台風じゃない!

 ハリケーンだ!」

「国際基準じゃどっちもかわんないんですけど」

 登場して一分足らずでボスキャラとしての威厳を損なったももいろタイフーンは、余裕の笑みを(必死に)取り戻して、

「そんなに姫に会いたいなら会わせてやろう」

 と指をぱちんと弾いた。



 がちゃり、と金属音が鳴った。


 現れたのは確かにトトキだった。

 だが、いつもの奇天烈なドレスではなく、日本の戦国時代を彷彿とさせる甲冑らしき鎧で武装をしている。



 顔には生気がなく、瞳はまるで死んだ魚のようだった。



「もっともお返しできるのは身体だけだが」

 全ての力を吸い取られたのだろうか。

 まるで、生きてる人形だった。


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