§26 一期一会の仲間
水流の異変に気付き、駆け付けた藤也達は自分たちの遅れを呪った。
滝の近くに無数の、河童らしき生き物の死体が転がっている。
ここで戦闘があったのだ。
部長とトトキはどうなったんだ――?
「……遅ぇんだよ、お前ら」
岩陰から部長の声。
藤也達は駆け寄り……息を呑んだ。
部長の全身は灰色に変色し、触れると、コンクリートの様に硬くなっていた。
――石化していたのだ。
かろうじて喋れるのか、口元がごりっと動き、
「〝デメリット〟みたいだ。
きついな、これは」
といつものように軽口を叩いた。
「けどそれに救われた。
小高、竿の先を見ろ」
部長と同様石化している釣り竿は、同じく石化した糸を張って何かを持ち上げていた。
川の上に何か、奇妙なものが渦巻いている。
水流とは無関係に渦を描き轟々と音を立てている。
空間の切れ目という表現がしっくりきた。
「あの先に、トトキちゃんが捕まってる」
部長は石化する体も厭わず、これを釣り上げたのだ。
「それから、クリスタル。
右のポケットだ」
結衣が探ると、言うとおりクリスタルが出てきた。
だが、クリスタルから離れても部長の石化は止まらない。
「……小高。俺はカッコイイか?」
「はい。
すげえ、カッコイイっす」
「へっへっへ。だろぉー?」
部長は満足そうに笑むと、
「……悪い、俺、ここまでだわ……。
後……たのむ」
部長はそれきり喋らなくなってしまった。
「ぶちょぉッ!」
海斗が抱きついてオイオイと泣く。
藤也はかぶり振ると、宇治金時に言った。
「トトキの力が戻れば、クリスタルを無かった事にできるんだよな?」
「その通りだ。姫を救う事が、彼を救う事に繋がっただけだ」
なら悲しんでいる暇はない。
尊敬する先輩が命懸けで残した活路を、前に進むだけだ。
「霧崎、天野。
こっから先は俺と宇治金時で行く」
藤也がクリスタルを渡すように要求すると、結衣は拒否をした。
「私も行きます」
「海斗も行くよ!」
「駄目だ。
こっからは危険なんだ。
部長を見てみろ!」
そう言うと、結衣は藤也をきっと睨んだ。
「先輩がトトキと部長を救うなら、じゃあ誰が先輩を救うんですか?」
「何言って……」
「〝仲間を天秤に掛ける事ができるんですか?〟」
「は……?」
「私が昨日聞いた質問ですよ」
バス停での会話か。
その問いかけに、藤也は選べないとしか答えられなかった。
「答えなんてありません。何故なら前提条件が間違っているからです。
仲間を選んだりするのは孤独な人間のすることです。
仲間にも意志があって、先輩は誰かの仲間なんです」
結衣は声を上げて怒鳴った。
「先輩が仲間を命懸けで護る様に、私も先輩を護りたいんです!
一人で誰かを救おうとするなんて、孤独なやり方はやめてくださいッ!!」
「……だ、だけど」
「嫌だと言われても着いていきます。
私には、仲間を選ぶ権利がありますから」
圧倒され、藤也はついに折れた。
「判った。一緒に行こう。
……無茶はするなよ?」
「おほん」
宇治金時が咳ばらいをした。
「あー、なんだ。盛り上がっているところ申し訳ないがな。
文脈をたどる限り、どうにもその〝仲間〟とやらに私が入っていないような気がしてならない」
「入ってませんけど、何か?」
しれっと言われて、ウサ耳がへたれた。
「入れてほしいんですか?」
「……ふむ」
セラフィーはずっと疑問だった。
何故彼らは出会ってすぐの姫のために、命懸けで戦うのか。
その疑問は今だ解決しない。
だがきっと、彼らにとって仲間とは、今この瞬間を共に過ごした相手の事を言うのではないのだろうか?
きっかけはなんだっていい。
キャンプでも、海水浴でも、たまたま居合わせた車内でも。
彼らはそれを重んじる。
仲間に〝助けてくれ!〟と言われて馳せ参じる人間が、どれほど居るのだろう。
目の前の繋がりを重んじ、熱くなれる人間が果たしてどれほど居るのだろう。
見るがいい。ここに大勢居るぞ!
「ああ、そうだな」
そういう奴らに出会えたことは幸せだ。
例え、この戦いの後にもう二度と会えないとしても――、
「是非、仲間に加えてほしい」
――ようこそ。
甲斐葉高校サーフィン部へ!




