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§20 釣りに行こう!



 どこまで冗談なのか、本気の嫌がらせなのかわからないかき氷メーカーを持ったまま固まってしまった宇治金時を余所に、藤也達は新しい問題に直面していた。

 それは結衣のこんな一言から発覚した。




「受け入れるのはいいとして、宇治金時さんに与えるエサがありません」



 エサってお前。



 だがただでさえこのキャンプは三人で行われる予定だったのに、そこにトトキを迎えたため、食料事情が切迫しているのは確かだった。

 さらにもう一人を食わせてやる余裕などどう考えても無い。

「ご飯が無いなら、魚を食べればいいじゃない」

 マリー・アントワネットを意識した口調で部長が提案し、ハイエースからつりざおを持ってきた。




 そんなわけで、一行は少し上流の河川に釣りに向かうことと相成った。




「ちゃんと許可取っといて正解だったな。

 この辺は鮎が釣れるらしいぞ」

 グラサンがうきうきしながら言った。

「小高、釣りは初めてだろ?

 教えてやるぜ」

「まさか。ガキの頃徳島に居たんですよ。

 海に川に釣り三昧だったんですから」

「大方、ザリガニでも釣ってたんだろ」

「馬鹿にしちゃって……後で土下座させてみせますから」

 そんなふうにわいわい騒いで歩いていると、後ろから、

「のんきに釣りなんてしている場合ではないだろう!?

 今置かれている状況を整理するのが先決ではないのか!?」



 宇治金時がウサ耳を振りまわしてわーわー騒いでいた。



 昨晩藤也が奪取した剣を鞘に納めて、スーツの上から肩にかけている。

 両手にはバケツを持っていた。

 片方はトトキの担当だったはずだが、主従根性が災いして彼女からぶん捕ったのだ。



「そんなこと、釣りをしながらでもできるからいいんですよ。

 それより食事の確保が重要です」



 結衣がそんな風に諫めていた。

 偉そうに言ってるけど、それってついこの間まであいつのポジションだったんじゃないかなー、なんて思ったりしたが、後が怖いので藤也は口に出さなかった。

「楽観的過ぎる……ッ!

 いいか、先日起きた巨大台風は」

「見えたよーッ!」

 宇治金時が何か大事なことを説明しようとしたが、海斗はそれを遮って声をあげた。

 鋭く尖った渓谷の間に、エメラルドに輝く清らかな水の流れが現れる。

 太陽の光を受け、きらきらと波打っていた。



「わーきれーっ!」



 海斗が歓声をあげた。

 結衣も淡泊ながらに笑みを浮かべ、トトキはきゃっきゃと騒いでいる。

 藤也としては、ちょっと四国の小歩危に似てるな、なんて感想だった。



「本当にわかってないようだな! こんなことしている間にも……」



 一名、空気を読まずにまだ喚いている。

 まあ落ち着いてから聞いた方がいいだろうと判断して、藤也は河岸に進行した。

 あの岩陰なんかがポイントと見たぞ。

 ではさっそく、餌を取りつけ……えいや!


「まったく! 姫!

 あー、じゃなかった、トトキさん!

 いくらなんでも話にならない! 我々だけで話し合いをしましょう!」

「宇治金時さん、ちょっとうるさいです。

 魚が逃げちゃうじゃないですか」

「その宇治金時を今すぐ撤回しろ!

 もはや侮辱だぞ!」

「はぁ……」



 結衣はため息をつくと、なにやら宇治金時に耳打ちを始めた。

 時折、藤也をちょいちょい示して、そんでまたなにか囁く。



 するとどういうわけか、宇治金時の顔がどんどん青くなっていくではないか。



 一体なにを吹き込んでいるのやら。

「あのさー、女性陣は焚火の準備しててくれるとありがたいんだけど」

 藤也がそう注文すると、

「はいッ!」

 っと、真っ先に宇治金時が手をあげた。

「う……宇治金時で大丈夫です!

 宇治金時がうれしいです!

 ぜんぜん、その……幸せですからぁ!」

「……、いや、焚火を……」

「ひぃ、ただいまッ!!」

 変なスイッチをONにしたまま、猛烈ダッシュで薪拾いに行ってしまった。



「……うーん」

 首を傾げてちょっと悩んだが、

「ま、いっか」

 藤也はいろいろ諦めることにした。



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