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45-③

「おい、坊主。誰の許可で俺の椅子に座ってるんだ?」


 椅子は元々回転できるもので、吉永那桜よしながなおを降ろさずクルッとテーブルから榊本祐大の方へ向くように回す。


「ああ、その子預かってる子だから、怖がらせないであげて」

「預かってるって、誰だよこの坊主?」

「吉永那桜くんって言うのよ。あたしのお友達」

「やっぱ、お前精神年齢低いんだな」

「何よ、それ」


 片瀬莉亜と祐大の間に椅子の上で動けずに、莉亜の服を掴んで黙り込む那桜。

 そこへやっと用事を済ませた榊本慶太が戻ってきた。


「ふたりとも子供がみてるから」


 咳払いして気を取り直した祐大。


「悪かったな、坊主」 


 莉亜が那桜の視線に合わせるのにしゃがんだ。


「ごめんね、この人怖いよね」


 那桜を挟んで向こう側の祐大もしゃがむ。


「っんだと。これでも子供には好かれるぜ。名前は那桜だな」


 那桜は警戒するよな感じで頷くだけだった。


「ほら、怖がってるじゃない」

「ダイジョブダイジョブ、俺は祐大だ。よろしくな」

「祐ちゃんだね。うん、よろしくね」


 ほら見ろ、と言わんばかりの祐大の顔はとても得意げな感じだった。

 慶太がキッチンでご飯を用意しながら、莉亜と祐大の睨み合いの模様を視界の隅で見る。


「いい加減、ふたりともそこまでにしとけよ」


 慶太の注意喚起で祐大が立ち上がるとキッチンから出たが、すぐに戻ってきた。

 莉亜に一言だけ忠告の言葉を。


「俺の席じゃなくて、良人のとこ使えよ」


 と、莉亜の肩をポンっと軽く叩いた。

 莉亜はハイハイっと適当に返事をして、那桜を別の席に移す。


 慶太と莉亜ふたりは那桜と一緒に晩御飯を済ませるのだった。

 那桜が莉亜の服をちょこっと摘まんであどけない瞳で頼む。


「莉亜ちゃん莉亜ちゃん、向こうでお絵本読んで」


 莉亜がテーブルの汚れた食器に視線を送るって、どうしようか迷う。

 視線に気づいた慶太が、手早くテーブルを片付け始めた。


「いいよ。俺が片付けるから、君は那桜の面倒をお願い」

「ありがとう」

「君じゃなく、那桜の為だからね」


 莉亜が小さい声でだよね、と呟くがシンクで食器を洗おうとしていた慶太が反応。


「なんか言った?」

「ううん、何も。那桜くん行こうかぁ~」


 那桜を椅子から急いで降ろして、キッチンを慌てて退散するのだった。


 慶太がキッチンで用事を終わってから、リビングへ行ったのと入れ替わるようにしてキッチンにまた人が来た。

 榊本龍之介と榊本良人が晩御飯の香りに誘わるようにキッチンへと入る。

 隣のリビングにいる莉亜と那桜を指さした良人。


「あの男の子は誰?」

「さぁな、俺に訊かれてもわからないね」


 不思議そうな目の良人に、冷蔵庫をあさる龍之介は自分の肩をすくめて見せた。

 

「そこより食事なら、あっちの鍋とかに残ってるよ」


 龍之介はあさるのをやめてから、手に皿を持って食事を一応2人分をよそうと席へ座る。

 テーブルに自分の分と良人の分を並べたら、食べ始めた。

 良人もそれで食べ始める。


「なんか、かあさんの事思い出すな」

「そうか」

「ああやって、よく絵本や本を俺たちに読んでくれたよね」

「まぁ、義母かあさんはホントの子じゃない俺たちにも良くしてくれたよ」

「子供好きだったけど、身体が弱かったからね。沢山は産めなかったけど」


 曇る目の色から一瞬で明るい目の色に変わる良人。


「でもその代わり、お前たちが来てくれて凄く喜んでたよ」

「でも、俺たちは本当の子じゃない上に……」

「それでも母さんは愛してたんだ」


 良人がそう言って、視線を莉亜と那桜に移す――とても懐かし気な愛おしいそうな瞳で見つめた。

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