45-②
動物園へ行く電車で、揺れる度に何度も那桜の手を握り直す莉亜。
莉亜は誰かに押し潰されたりしてないか那桜を気にしながら慶太に話をする。
「あのあの、今日は動物園だけじゃないんですか?」
「いや、家に泊まるよ」
慶太の言葉に眉をひそめた莉亜。
「えっそれってバレるんじゃ」
「大丈夫、今年に入って3度目だが、年中馬鹿どもが騒いでるから至ってバレないね」
「……そんなものなのかな」
「バレても、片瀬さんの預かった子だからって言えば大丈夫」
「えぇあたしですか?」
「それぐらい、いいだろ? 那桜に会えて、しかも泊まる事にもなるから、君にはこの上なく光栄な事だろう」
目が怖い目が、と莉亜は慶太の妙に鋭い眼光に怯える。
(時々、ドSな慶太さんが怖い……この世で一番)
などと莉亜は心の中で慶太にはバレないよう、笑顔を彼に向けながらひっそりと思った。
電車を降りて、しばらく歩いていると視線の先に動物園のZOOの文字の看板が見える。
それを見た慶太が那桜に声を掛ける。
「那桜、もうすぐ動物園に着くからな」
「うん」
満面の笑みで頷く那桜に、今度は莉亜が話し掛けた。
「楽しみだね。那桜くんは何がみたい」
「ぼくね、トカゲがみたいなぁ」
「ト、トカゲ?」
「うん、エリマキがついたの、それとねミミナシオオトカゲも」
「ははっ那桜らしいな。トカゲいるといいな」
「うん、絶対可愛いよ」
「可愛いだろうなぁ、那桜みたいに」
親子の会話に動物園へ行く気持ちが削がれた莉亜。
(なんかズレてるこの親子の感覚……あたしとは違うのかな)
以前、榊本家でイグアナ?トカゲ?に出会ってコリゴリしたからだ。
あれは那桜くんのペットだったらしいけど、気持ち悪かった。それを見に行くなんて、来なきゃよかった、と後悔しかない。
莉亜がそんな事を考えている内に恐怖の動物園に到着した。
爬虫類の展示室には入らず、莉亜は外で待つ事をふたりに伝えると親子はふたりで観に行くのだった。
30分くらいが過ぎて、ふたりが展示室から出てくる。
莉亜を見つけた那桜は慶太の手をふりほどいて、興奮冷めあがらぬような様子で彼女に飛びついた。
興奮した那桜は弾丸のように次から次へと爬虫類の話をしてくれるのだった。
他の動物たちも観に行くのにそれから園内を、那桜を連れて莉亜たちは見て回る。
すっかり、空も赤く染まり切った所で、那桜は眠たい目を擦る。
「那桜、眠いのか? そろそろ帰る?」
「うん、ちょっと眠いパパ」
「じゃあ、おんぶするから。ほらっ」
那桜は出された慶太の背中に乗ろうとするが上手く乗れないで、莉亜が手伝う。
「大丈夫、那桜くん、ここを手で掴んで乗って」
寝ぼけながら那桜は背中に乗り込んだ。安心しきった様子でそのまますっかり寝ている。
榊本家に着くまで起きる事はなかった。
◆◇◆◇◆
「ちょっと、那桜くん那桜くんってば」
「何、莉亜ちゃん」
「家に着いたんだよ。靴脱ごうか」
慶太が榊本家の玄関にゆっくりと那桜を下ろしてから、那桜のカバンとお泊りの荷物を手に取る。
今度は莉亜が靴を脱がしてあげた。
「ぼく、お腹ペコペコだよ」
「寝ちゃったもんね。慶太さんいつもどうしてるの?」
「外で食べてから家に泊まらせてたから」
「今日は誰かいたっけ?」
「皆いるはずだよ。とりあえず、先に行って。那桜に食事させてくれるかな?」
慶太は手に持っている荷物を見せて、自分が今からやる事を莉亜に悟らせる。
「わかったよ。じゃあ、行こっか」
莉亜が手を差し伸べると那桜はそれを握って、眠そうにキッチンへ歩く。
少し歩いてから慶太のいる方へふり返る那桜。
「パパは来ないの?」
「すぐ行くから。2階に荷物置いてくるだけ」
「うん、早くきてね」
「ああ」
莉亜がキッチンへ那桜を連れて入ると、時間もまだ早いのか誰も食事をしている人はいなかった。
那桜を椅子を回転させてからに上に座らせる。テーブルの方に向きを変えたが子供用じゃないのでテーブルに背が追いつかない。
「だよね。ちょっと待っててね」
那桜は頷いた。
それで莉亜は隣の部屋へ急いでクッションを取りに行く。戻って来たら、那桜は榊本祐大に絡まれていた。




