第45話 小さな宇宙人のお泊り大冒険
「片瀬さん今話できる?」
榊本慶太が申し訳ない声で、片瀬莉亜の部屋のドアをノックした。
声で誰かはわかったので、莉亜はドアを開ける。
丸い瞳を何度かパチパチと瞬きする莉亜。
「どうかしたの、慶太さん?」
「今さらこんな事頼める義理もないけど、那桜が君に会いたがってて、困ってるんだ」
莉亜は何も言わないでただ黙って慶太の話を受け入れる。
「正直、参ってる。毎日那桜にせがまれて」
「あたしは全然、会いたいです」
「色々大変なのに、こんな事ごめん」
「その逆です、那桜くんに会えるの凄く楽しみだな」
慶太の目の前で莉亜が嬉しそうな顔をしたかと思えば、今度は悩むような表情をして色々顔色を変えながらしゃべり続ける。
「あれから、気には掛けてたけど、中途半端な心で会いに行くのも違うかなって」
「俺があんな事言ったからだよね」
「なんか、正論が刺さりました、生ぬるい気持ちはダメなんだろうなって」
「あの子に、ちゃんと言ってあげてほしいんだ、これが最後だって」
「あたし、それはやっぱり言えません。でも、那桜くんを期待させたとしたら、言葉で説明します」
「小さい子が理解出来るとは思わないな」
「まだ未来がどうなるかもわからないうちから、先回りして守っても」
「あの子の母親、璃紗に似ている君だから、余計に守りたくなるんだよ」
俯いて黙る莉亜は考えをまとめようとするが何も出てこない。
困ったようすの莉亜を見兼ねて、慶太はあまり望まない提案を出した。
「この話は、昨日今日で終わるものじゃないから、少し様子をみよう」
「普通に会っても?」
「ああ、俺も一緒に……明日行くよ」
「はい」
少し和らいだ表情の慶太へ莉亜も笑みで応えるのだった。
◆◇◆◇◆
電車の中で周りに気を使いながら申し訳なさげに慶太が小声で会話をしている。
5分くらいの会話が終わって、慶太は携帯から莉亜をみる。
「動物園に行きたがってるみたいだから、家へは迎えに行かず駅で待つ事になったよ」
「そうなんですか、じゃあ、次がそうだから、待てばいいんですよね」
「ああ。俺たちが先っぽいみたいだから」
うんうんと莉亜が頷くと電車の扉が開く。人混みで上手く出られない莉亜に、人と人の間から慶太が手を差し伸べる。彼に助けられるとホームへ彼女はちゃんと降り立つことが出来た。
「ありがとう」
「ああ」
慶太は莉亜の顔も見ずに素気なく答えると足早にホームから改札へ。
駅の改札では遠くから吉永夫婦が会釈をしている姿が視界に飛び込んできた。
奥さんと旦那さんの間で、ご満悦の顔をした吉永那桜がふたりの腕を引っ張りながら駆け走ってくる。
3人が改札に着くと、奥さんが莉亜に軽く声を掛けた。
「お休みなのに、ご免なさいね」
「いえいえ、あたしも楽しみで」
「よかったわ、もう会えないかと思っていたから……あなたに」
「あたしもです。今日は那桜くんお預かりしますね」
「私も行きたいくらいなんだけど、主人に止められてね」
恨めしそうな目をした奥さんが隣にいる旦那さんを見る。
旦那さんはその目から逃げるように、慶太へ視線を逸らした。
「今日は若い人に任せなさい。頼んだよ慶太くんも」
慶太が旦那さんからの視線に応えるように視界の端で那桜を見る。
「はい、任せて下さい。責任をもって預かります」
旦那さんが那桜の頭をポンポンと軽く触る。
「じゃあ、那桜気をつけてな」
「明後日にまたね、那桜ちゃん」
奥さんは那桜を優しくハグしてから、彼を放した。
吉永夫婦に那桜が笑顔で手を振るのだった。
「行ってくるね、バイバイ」
※第17/37/38話参照




