第43話 約束
「あのさ、迷惑なら二時間も学内の何処にいるかわからない人間探しに来ないって」
不本意そうな龍之介はポリポリと頬を人差し指でかく。
目を合わせない龍之介を見つめる莉亜。とても残念そうな口調でボソボソと彼に答えを返した。
「ほら……優しいから、ね」
「あ~~のな……可愛げのある女は――――こうやって」
龍之介は莉亜の片腕を掴んで引き寄せる。まどろっこしそうな感じで軽々とお姫様抱っこをした。
「こう言うのせがんで、ずるがしく甘えるんだよ?」
あっ、と躊躇するような声が漏れた莉亜。何かを迷う素振りをするが、太い腕の上で何もしないことを選ぶ。そのまま抵抗を諦めると、龍之介の行動を素直に受け入れた。
ふたりはマジマジとお互い見つめ合うが、またも残念そうな表情を浮かべる莉亜。ものすごく低いトーンで言うのだった。
「あたしが……そんなのできると思う?」
龍之介の首に回した莉亜の腕が、少し力を帯びた。力んだ腕で必死につかまる彼女の姿に、気の毒で思わず視線を外した。
「あっいや――――」
龍之介は言葉が続かず口ごもる。少し考えてから、それでも囁くような声を出した。
「できないな……ごめん」
「――――うん――――だから、おろしてもらえると」
「おろさないって言ったら」
真顔で平然と言ってのける龍之介。
「また~じょ冗談は無しだよ」
「冗談を言ったつもりはない」
「そ、そんな事あたしには言わないよ、龍之介君は」
「なんでだよ?」
「な、なんでかは……わかってるから」
「本当に? どれだけ理解してる、俺の事を」
「――――わかんない、何も理解してないのかも。でも、でも絶対言わない」
ふたりの会話は少しずつ熱をましていくのだった。
「なんでいつも頑なで可愛くないんだよ――――そんなに」
「あたしの事だって……わかってない――――」
「……る訳ないだろ、こんな面倒くさいの……こんな時も可愛さのカケラもない女――――でも俺の中に少しずつ……」
話すのをわざとやめる龍之介。自分の言い掛けた言葉をのんだ。
「口を開けば面倒くさいだの、可愛さないって――――なら……関わらなきゃ――――ホントにおろして。こんなとこ……また誤解されるし」
「んとにっんな事、どうでもいい」
莉亜は予想外の言葉に思わず龍之介を見る。表情から彼の気持ちを探ろうとした時、唇が重なる。一瞬の出来事で、次にはもう離れていた。
龍之介が呆然とする莉亜の瞳をジっと優しく見つめる。さっきのテンポではなく、ゆっくりめに喋るのだった。
「……もう、誰に誤解されても関係ない。俺が……莉亜を必ず守るから――――約束する……なっ?」
うんうんとただ何も言わず頷く莉亜。




