間話 USAより愛を込めて
「んっ、この手紙、確か……親父が言ってた女の子の――――――」
家の郵便ポストから一通のエアメールを取り出し、それを片手に足早と自分の部屋に向かう良人。
部屋へと行く。スチールパイプ製で造られた小さな机へと、迷う事無く一直線で座った。
丁度手の届く所に文房具がある。それに手を伸ばし、ハサミを取り出してから封を切る。
「え~と、何々。拝啓、突然のお手紙失礼致します――――」
手紙にはつらつらと達筆な字で、日本語の文章が書いてあった。
「私共は旧友であるお父様に今回の事ではお世話になり――――――」
長々と書かれている文章をはしょりながら、黙読していると、良人の目を引く文章が。それは娘を想う両親の想いが込められた文章。
――――――――彼女は頭が良く、他のお嬢さん方と比べても、遥かに愛くるしい娘なのです――ウブなのでしょうか、今までにボーイフレンドを紹介された事がありません――――、そこまで読むと良人が手紙相手にツッコム。
「って、今時そんなウブな子いるのかなぁ。それで続きはと」
手紙に視線を戻す。視線で文章をたどる良人。こちらで素敵な男性と巡り会ってくれると、親としても安心で――――、良人はさらに読み続ける。
「ふんふん、それで何々」
娘の写真を同封したのをご覧になってみて下さいねっと、締めくくられているのだった。
「なんて言うか――間違いなく、本人の許可を得てないな」
(悪意はないと思うけど、それがないだけ――――――余計性質が悪いだよなぁ。こういうタイプの人たちは)
とりあえず、良人がは封筒の中を興味本位で覗いた。窮屈そうに写真1枚入っているのを確認してから、それを引張り出すのだった。
「――――期待はできそうにもないなぁ……にしても、俺迎えに行かなきゃならないし」
裏向けになった写真に視線をむけ、しばしの間考える。
(フッ……どちらにしても、過度な期待はできないだろう、な)
ひとり何か納得したらいく、頭を上下に軽く頷ずかせた良人。
「よしっ……いずれにしても会う訳だし。今なら幸い心のダメージは少ないはず」
意を決した良人は裏返った写真を表にする。瞳を何度も瞬きさせた。
写真は頭で想像した容姿とはかけ離れた女の子が写っている。
中年夫婦の間には黒髪の可愛らしく小柄な女の子が微笑む。それは幸せな家族をそのまま切り取った感じの写真だった。
想像していた以上の結果に、思わず良人は写真の莉亜を見る度ニヤニヤする。
「……超可愛いぃぃ」
机に倒れたまま良人が写真をニヤつきながら執拗にみる。
手紙の事など一切知らない慶太が、玄関先から2階に聞こえる様大声で、今だ写真でニヤつく良人を呼んだ。
「良人っ下に降りてきてくれ」
慶太の声が余程大きかったのか、リビングでくつろいでいた祐大が、部屋から様子見に玄関先へ出てくる。
「アイツ聞こえてるのか? だいたい部屋に引きこもってさっきから何やってんだか?」
「何しているのかは知らないけど、呼んだらすぐ来てくれないと」
「兄貴、直接呼びに行く方がいいんじゃないのか? 所で何の用なんだよ、良人に?」
「ああ、それが……」
困ったような顔を見せる慶太は玄関のドアの方へ行くと、音をたてながら引き戸を開けた。
玄関の先の道路に1台のトラックが、止まっていたのを祐大が目にする。
「なんだっなんだ?」
間の抜けた声で祐大は、玄関外から視線を慶太に向け直して訴えた。
「……親父が言ってた下宿人の荷物らしいんだ。で、さっきから道路のとこで待ってもらってるんだけど」
「適当に運び入れてもらえばいいじゃん。何も良人に頼まなくても」
「運びいれる部屋がわからないから、わざわざ呼んだんだよ」
「――――なるほどな」
「しょうがない奴だな。ひとが呼んでるのに」
慶太が階段をそう言って見上げると、つられて祐大も同じようにみる。
ニヤつきながら良人が階段をやっと降りてきた。
良人の緩んだ口元が視界に入った祐大は、気に食わない様子。彼が階段をおりきった所で睨みつける。
「何ニヤついてんだよ、気持ちわりぃな――おめぇは」
「べ、別になんでもないよ。でっ、用って何?」
「下宿人の荷物頼んだ。今から勉強するから、静かに運び入れてくれよ」
「はっ? 荷物……って、どこに?」
「外のトラック」
慶太の言葉の意味がわからない様子の良人は、困惑気味に言葉を繰り返す。
「トラックって……」
「だから、外つってんだろ。外見てみ、ホレっ」
玄関外を指差した祐大に促されて良人が渋々玄関を出ると、3人程筋肉隆々のお兄さん方がにこやかにこちらを見ている。その光景に呆気にとられたまま固まっている良人。
「良人、頼んだぜ」
祐大の声でハッと振り返る良人。何食わぬ顔のふたりは元居た部屋に戻ろうとしていた。
「って、おいっ待て。手伝うよね……ふたりとも」
「なんで俺らが手伝うんだよ。どうせ暇だろっお前は」
「暇って……」
「祐大と同じく。当然――暇な人間がするのが当たり前だと思う」
あまりの理不尽さに弱々しいながらも発言する良人。
「いや、なんて言うか……家にいるなら手伝ってくれてもいいよね?」
慶太がふと考える素振りを見せる。自分の手で、軽く顎を支える。
考える様子をしばしの間うかがわさせた。
「――――納得できないのなら、多数決で決めようか?」
「いやっ、もういいです……やります」
(多数決じゃ、意味ないだろ……てかっそれ……ただの数の暴力だから)
この時もふたりに諦めの境地に立っていた良人。
◇◆◇◆◇
「おいっ良人っ良人っ」
良人の耳に水をさす声がした瞬間、ハッと時を戻される。どれだけ時が経ったのかはわからないが手紙が来た日の回想から一気に意識が現在に戻る。
「お前、まだ家に居たのか? 兄貴、今さっき家出たぞ」
祐大がそう言うと大学へ行く準備を終えていた。
それを見た良人は焦ると、無造作な髪の毛に右手を伸ばし、左腕のシンプルな飾りっけのない腕時計を見た。
「やばっまだ髪の毛もセットしてないよ」
時間を見て慌てだす始末。
祐大の前を通り越した良人は、そのまま階段の方へ急いで駆け出した。
急ぐ背中に向け大声で祐大が叫ぶ。
「おいっ俺も出掛けんだからなっ戸締りしとけよ」
「わかってるって、やっとくから」
階段を急ぎ下りながら適当に返事だけを残し、祐大の視野から一瞬にして消える良人。
廊下で立ち尽くす祐大は呆れた顔をした。そして、相変わらず頼りないと良人の事を改めて認識するのだった。
(肝心なとこが抜けてるよな、あいつ)