41-②
同時にかがんだせいで、ふたりの間からも鈍い音が鳴り響いた。
ふたりからは言葉にならない声が口から飛び出す。
「ぁつ――――――」
頭をぶつけたふたりは、かかんだまま動かない。
少ししてから、莉亜が顔だけ上げた時には、もう龍之介の瞳には透明な液体があって、そこからひと滴流れていたのだった。
驚いた様な困惑したような顔をした莉亜。声を出せずにいたが、なぜか龍之介をみつめる事だけは出来た。彼をみつめると彼もまた、ただみつめ返すだけ。その瞳が何かすがられている気がして、無意識のうちに彼の頬へおそるおそる手を近づけるのだった。
莉亜が頬に流れる滴をそっと細い指で払い拭う。すると、滴を拭った細くて折れそうな腕を龍之介が力なく掴んだ。
それに応える様に莉亜からゆっくり龍之介へ近づいていくと、ふたりは瞳を閉じるのだった。
「何してんだ、お前ら?」
と、そこでふたりの瞳を開けさせる声がした。
驚いて立ち上がったのは莉亜。
ベランダの扉にいた榊原祐大の横を横切って、莉亜は自分の部屋に行く。自分でもわかるくらい、これ以上ないと思える程煮えたぎる熱い身体。
初めてわかった――――――学くんが自分にしようとしていた事が――――――自分も同じ事を無意識にしようとしていた事に。これが好きな相手に触れたいと言う衝動。初めて感じた衝動と気持ち――――――学くんとは違う想い。“好き”っていう恋の感情。
(彼が好き――――――彼が好き………………彼が……好き)
顔を手で覆うと部屋の中で独り泣き崩れる莉亜。龍之介を想い痛む胸の中で何度も何度もそう唱えるのだった。
◆◇◆◇◆◇
「お前、アイツに何させようとしてたか、わかってんのか?」
「――――――お前にはどうでもいいだろ」
すくっとそう言って立ち上がる龍之介は、祐大を睨む。
「どうでもいいけど、アイツはやめとけ。マジじゃないならシャレになんねぇからな?」
「祐大、いつから莉亜の保護者になったんだ?」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、お前にも他にいんだろ……大事な女が」
祐大の問いには何も応える事無く、さっき拾い損ねたライターを掴んでから、龍之介はベランダから出て行く。
「なんか、言えよ。アイツには彼氏もいるし、ストーカーとかこれ以上色んな事抱えらんねぇだろ。上手い嘘もひとつ、つけやしない。そんな女だぞ! わかってんだろ?」
龍之介は足を一度止めてから、祐大の言葉を聞く。それから何も言わずに握っているライターをただ黙ってみつめるのだった。
※第2・12・27・31~36・39・40話参照




