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第41話 初めてわかる想い

 榊本龍之介は独りベランダの柵に肩肘をつきながら、タバコを吸う。煙を口から吐くと、白い靄が暗い空に広がって行くのを何度も繰り返してから、独りぼんやりとそれをただみつめた。


 頭の中で高科ちさとの事を想い、胸が苦しくなる。あれから何度も連絡を取ろうとしたが電話が通じない。それ所かアイツまで本当に消えてるし、ちさとさんもいない。ふたりは本当に行ってしまったんだな…………俺がガキ過ぎて、彼女に何一つできやしない。俺はただの傲慢なガキンチョだったんだな。


 龍之介がうな垂れる中、ベランダの扉から嬉しそうな女性の声で彼の名前を呼ぶ声がする。その声で考える事を終わらせるのだった。 

 振り返ると、そこには莉亜がいた。そして、ベランダから何か言いたげに顔を覗かせている。その期待に応える様に聞く。


「どうかしたのか、わざわざここにくるなんて」

「うん……ありがとう。最近、よく迎えにきてくれてるから」

「ああ……別に気にしなくていい――――――暇だからな」

「でも、龍之介くんバイトしてなかったっけ?」

「ああ、それは…………しばらく休むって言ってあるから――――――暇なときは迎えに来てやるよ」

「なんか、優しいね――――不気味なくらい……」

「どういう意味だよ、それ? 俺は元々優しい人間だよ」

「フッそうだね、なんだかんだ言って優しかったよね。いつも困ったら助けてくれるし。今も助けてくれる」

「だろ?」

「――――――――うん」

「なんか、妙に素直で調子が狂う……」

「あたしだって――――元々素直な人間なんだから」


 莉亜はそう言うと、少し照れたような顔を伏せた。そんな彼女をよそに龍之介が自分の隣に人がひとりいられるだけの隙間を空けた。


「――――――ここで話せば?」

「いいの? だってここ独りになりたい場所でしょ?」

「よく言うな、長々話しておいて」

「だね――――ごめん」


 莉亜のそう言った顔が、また少し恥ずかしげになるのだった。

 隣に納まると莉亜はマジマジと龍之介の横顔を見つめる。


「んっ? どうかしたか?」

「ううん、なんでもない――――――なんでもないけど、なんか不思議だなって」

「何が?」

「うん――――こんな風に話できるようになるなんて思ってもいなかったな」

「そうだな――――会えばほとんどケンカばっかだからな」


 今度は龍之介が莉亜の横顔を見つめた。


「んっなんかついてる?」

「いや……ただ――――同年代の女と会話するのが久々で」

「なにそれ」

「なんか新鮮味を感じただけ――――――」


 そう言った龍之介の手からライターが落ちてしまう。それを拾うのにふたり同時にかがんだ。 

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