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講義が終わると廊下に出て行く学生たち。
彼らは自分たちが思うそれぞれの方向へと歩いて行くのだった。
莉亜は雑踏や会話が遠く離れて静かさを取り戻した講義室に、取り残されたかのように独りでまだいる。そんな彼女の背後から、呆れた様な口振りで声を掛けてきたのは小野寺教授。
「話題に事欠かないね、君は」
「なっ小野寺教授、どうして、ここにいるんですか?」
不思議そうな言い方とは裏腹に、小野寺教授へ理解できない、と言った様子の莉亜は彼に怪訝な顔をする。
「それに、なんですか唐突に?」
「まず、君の質問に答えよう。通りかかった場所に君がいたのと、今や学内一の有名人じゃないか。だから有名人の君に声を掛けたのさ」
「教授、仮にも教壇に立つ人間がそんな愉しげな顏でいう事じゃ、しかも配慮なさ過ぎです」
莉亜の深刻な顔つきからは、明らかに小野寺への軽蔑の意が込められている。そんな彼女の辛辣な態度で傲慢な彼の態度もまた一変した。
「――――――心外だね、そんな風に俺の事を…………言うとは」
寂しげな声とともに小野寺の表情も変わり、莉亜の顏から視線を外すと真面に見ようともしない。それに慌てたのが逆に彼女だった。
「あのっ今イライラしてて――――その、ごっ――――ごめんなさい、あたし言い過ぎてしまっ――――――」
「ホントに君はからかい易いね」
そう言うと小馬鹿にしたような微笑を浮かべる小野寺。
「なっなら、ひと言でいうと教授はアンモラルです」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ。それよりも課題はどうなっているんだ?」
「そ……それは今書いてるので…………まだ、見せる段階じゃ」
「そうか――――――――それなら今度……」
「今度――――なんですか?」
「いや、なんでもない。気にするな。何かあればいつでも――――――」
小野寺が何が言いたいのかを悟った莉亜は、此処ぞっとばかりに力いっぱいに拒絶を示した。
「いつでも――――――? それはないです」
軽蔑したような口調と冷淡な表情で、ある意味感情を隠さずに答えた莉亜。
頑ななその彼女の態度に小野寺は笑って取り繕った様にみえたが、ふと寂しげな顔つきになる。
「ああ、そうだな。それが賢明だ」
それを最後に何事もなかったように、ふたりは講義室から正反対の方向をお互い歩き出すのだった。
※第18/25/36話参照




