表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/100

39ー③

「よかった、家に居てくれて」


 助手席から、車を運転する榊本龍之介の横顔を莉亜が見ながら話す。

 その顔は少しだが不機嫌そうにみえた。


「……ああ」

「事情は電話で話した通りで」

「ああ――――――」

「そう言えば龍之介くんさ、今日バイトは?」

「――――――ああ」


 絶句する莉亜。同じ言葉しか繰り返さない龍之介に、一瞬、言葉が出ない。


「――――――――あのさ、話聞いてる?」

「ああ」


 こっちを一秒たりとも見ないで、前をぼんやりと直視する龍之介。


「龍之介のバァァァァァァカ」


 そう言った莉亜の身体が一瞬だけ前のめりになった。

 それは信号が赤になったからなのか、龍之介が言葉に反応したからかなのかは、わからないが、とにかく急に車が停止した。


 それと同時に心ここにあらずだった龍之介の表情が戻って来た。

 でも、どうやら莉亜の言葉にお冠の模様。


「…………って、おいっなんだよ、それ」


 ますます龍之介の顔が不機嫌極まりない表情に、予想以上に変貌していく。しかし、莉亜はその逆でやっと相手してもらえた事で、彼に笑顔を向けるのだった。


「やっと、反応してくれたね」

「あのな……」


 龍之介は怒りを通り越して呆れている模様。


「……さっきから、何をイライラしているの?」

「アンタには関係ない――――――」


 そう言ったのと当時に、信号が赤から青に変わる。それで車が動き出すと、ゆらゆら揺れる車内ではふたりの会話が途切れた。

 それから、何度目かの信号機に捕まると莉亜が口を開くのだった。


「あのさ……不機嫌なの、あたしのせいなのかな?」

「違う……アンタは関係ない――――――」

「――――――もしかして、ちさとさんって人に、関係して……」  (※第7・8・28・29話参照)

「なんでそう思うんだ、何か知ってるのか?」


 その言葉に少しだけためらった様子をみせる莉亜が、この間自分が見た事を話し始めた。


「あの日、家から出て行ったあなた達の事を見かけたの、あの後……偶然」  

「見たって、もしかして……公園での事か?」


 訊かれたことに莉亜が黙ってうなずく。それを見て参ったという言う感じに、龍之介は頭をかいた。


「あれを……か――――――」


 静かにそう言うと、龍之介が息をゆったり吸ってから、苦々しい表情をする。


「…………カッコ悪いとこ、目撃されたな――――――アンタが言う通り彼女の事だ」

「彼女って、高科コンツェルンの」


 莉亜が話し終わらない内に、憮然とした表情の龍之介が口をはさんだ。


「で、だから……なんだって言うんだ?」

「なんだ――――――って、彼女結婚してるんだよ?」

「そんな事、アンタに言われなくともわかってるよ」

「結局、最後は旦那さんのとこへ戻って行く人なんだよ?」

「知ったような事言うなっ何も事情を知らないだろ、俺たちの事を……」

「知らないよ――――――何も。でも、これだけは確実に知ってる、不倫が良くない事だけは……」


 龍之介がそう言った莉亜に、それ以上に険のある言い方をした。


「――――――――俺もだ」


 ふたりはそれ以上話しをする事は、なかった。

 そして、車は、ふたりとは裏腹に順調に榊本家に向かい、無事到着するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ