39ー②
「今日はこの前みたいなの、嫌だなぁ」
「そうだよね~莉亜ちゃん、あの時一緒にいたけど、マジヤバイし、マジ怖かったよね」
そう言ったバイトの女の子に、何も応えない莉亜。その顔色は真っ青になっていた。
「ちょっとっどうかしたの?」
そう言った彼女の手が固まる莉亜の肩に触れる。それで彼女の方をみた莉亜は声にならないという様子。
莉亜が恐る恐る自分のロッカーをガタガタ震えながら指差した。
そこにあるのは、一枚の紙切れ。
「ただの紙切れじゃん、それがどうしたの?」
「ちがっ良く思い出してみてよ――――――今日の事」
「えっ……一緒のバイト入りで、ずっと後はバイトしてたぐらいしか……思い出せない」
「そう、それっ」
「ごめん。わかんない、言いたい事が」
「あたしのロッカーを見たよね、その時の事思い出して」
「ええっと確か……」
そう言ってから、彼女の表情が一気に変わる。
「そうだよ……た、確かエプロンがないって言ってた。じゃあ、紙切れの下にある白い布って」
「これって、誰のエプロンドレス――――――――」
「わ、わかった誰かが黙って借りてたの、返したんじゃない?」
「――――――――ないよ……それは」
「そうだった、鍵は自分しか持ってないか……ら――――――」
今度は彼女の顔から一瞬で色が消えた。
莉亜はエプロンの上にのる紙の端をゆっくり摘まんだ。紙にはこう書いてある。
『プレゼント喜んでくれたかな。新しいエプロンドレスの透き通るような純白の方が、君には似合うよ。可愛い僕だけの妹、誰よりも誰よりも愛してる。僕に教えてくれるかな、今度は何がいい? 僕だけの清らかな天使』
それをみた瞬間、体中から体温がなくなるのを感じる莉亜。
「これ……冗談抜きで、マジでヤバくない?」
「どうしよ……この前ロッカーの鍵失くしてて。すぐに見つかったんだけど……その時かもしれない」
「とりあえず、店長呼んで事情説明しよっ、ね?」
手の平で自分の口を覆ったまま莉亜は声にならないが、言葉の代わりに何度も小刻みに頷くのだった。
「じゃあ、空いてるロッカーがあるから、それを使いなさい」
店長がそう言うと新しいロッカーの鍵を莉亜へ渡す。それを受け取ると元の鍵を彼女は店長に返した、
「ありがとうございます」
顔色の悪い莉亜を心配そうに覗き込む店長
「それより、大丈夫かい?」
「――――――なんとか……ただ、鍵を返してくれたのは、ここのバイトの子で」
「じゃあ、犯人はわからないのか?」
莉亜が頷いてから、今わかっている事情を説明する。
「その子に連絡して詳しく訊ねたら、男の人から拾ったから、と言われたらしく。それで鍵の番号であたしのだとわかって、返してくれたんです。後、顔は記憶にはないらしいです」
「じゃあ、最近の新規の客かもしれないね。警察に連絡しても、盗難扱いだろうけど、被害届どうする?」
「もう少し、様子みてみます。ロッカー変えてもダメなら、その時は警察に」
「でも、それで何かあったら困るよ。こっちも事件とかに巻き込まれるとね……こっちもね……」
「おっしゃりたい事はわかります。でも……」
お互い苦渋した表情で黙ったまま、話合いが進まない。そんな中、店長が苦しそうにヴ~ンと頭を抱え込む。莉亜はその様子をただみる事しかできないのだった。
「――――――バイト、しばらくシフトから外れてもらうしか」
「それは困ります。次のバイトでもご迷惑かけたら……その時は」
「それじゃあ、その時は何言っても、外れてもらうよ。後今日から家の方に迎えに来てもらいなさい。外にまたふたりぐらい、客がいるようだから」
「またですか……家に電話してみます」
そう言って莉亜は携帯を取り出して榊本家の家電にかけるのだった。




