第39話 探し物の行方
大学の講義を終えると、榊本家に帰って来ていたが、自分の部屋でバイトのエプロンを探し回る片瀬莉亜。ベッドの下に、机の上や、タンスの中に、クローゼットを開けてエプロンを探すがやっぱり見つからない。
部屋を探す事を諦めた莉亜は、一階に降りる。エプロンがあるかもしれない場所へと向かうのだった
「ねねっ良人くん、あたしのバイトのエプロンみなかった?」
莉亜が洗面所入口から顔を覗かせて、木で編み込んだバスケットを持つ良人へそう声をかけた。
すると、洗濯機から兄弟たちの乾燥させた衣類などを取り出していた良人が莉亜をみる。
「エプロン……?」
そう呟いた良人が首を軽くかしげ、少しの間考える。
「いや、知らないよ。でも、どうかした?」
「バイト先のロッカーにも自分の部屋にもなかったから……洗濯置場にあるのかなと。でも、勘違いしてるみたいだから、気にしないで」
「でも、確かこの後バイトあったよね?」
「そうなんだ、そろそろ行かないとダメなんだけどね」
「じゃあ、俺が探しておくよ」
「ありがとう、良人くん」
「もし、あったら携帯するよ」
「じゃあ、お願い。あたしバイト行ってくるね」
「いってらっしゃい」
左手には乾いた衣類の入ったバスケットを持ち、右手だけを上にあげる良人。右手を莉亜へ向けて、左右に振って、莉亜を笑顔で送り出した。
◆◇◆◇◆
首を傾げる莉亜。視線は自分のバイトのロッカーから、はずせないでいる。
中はバイトの制服が2着。ロッカー内の上部の横棒に、制服をかけたハンガーが釣るされている。
下には頭部に着けるヘッドドレス。それはカチューシャにレースの飾りを付けたもの。
他には、手首に着用する小物などを置いていた。
莉亜はまだロッカーを食い入るようにみている。が、結局エプロンドレスがみあたらない。
「家にもないなら、ここにないとおかしいのに」
「どうかした?」
首を傾げて不思議そうな顔の莉亜へそう声をかけたのは、メイド喫茶のバイト仲間だった。
「それがさ、エプロンがどうしてか、ないんだよね」
「ないって、家の洗濯カゴにでもあるんじゃない?」
「それが家出る前ちょっとだけ探したんだけど、見当たらなかったんだ」
「きっと、その内出て来るよ。今日は店長に言って、代わりの貸してもらったら?」
「だね、そうしよっか」
莉亜はロッカーを閉めるとエプロンドレスを求めるのに、ロッカールームを後にした。
店長に報告して、莉亜はエプロンを貰うと、着替えるのだった。
「これで、全部オッケイっと」
そう言うと、最後に借りて来たエプロンドレスの付けて、バイトに出る莉亜。
メイド喫茶でのバイトもだいぶ慣れた莉亜。でも、その一方で困った事もある。常連さんや顔馴染みも増えて、その度に指名も増えたが、問題もそれと比例して急増した。
その問題というのが、熱烈な常連さんの一部が、スタッフ裏口で時々待ち伏せしてたりする。この前も店を閉店した時に待ち伏せされていた。
何かされた訳じゃないけど、やはりいまいちよくわからない相手は恐いという感情が生まれて、思わずそこから逃げ帰ったのを今でもはっきりと思い出す。
そして、あの怖い出来事と同じシフトが久しぶりに組まれていたのだった。
莉亜は閉店までいるバイトの最終組。バイトが終わるといつも通り閉店した店内を掃除してから、ロッカーに着替えに戻って来た。




