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38ー②

加筆しました。 2015/01/20 chocora

 この状況が飲み込めずにいる片瀬莉亜は、ひとり、頭の中で状況をひったすら整理し始める。


(……おかあさんって慶太さんのホントの母親って事? じゃあ、那桜なおくんの“パパ”って――――――彼がパパって事?)


 何も説明もないまま、キッチンのテーブルを囲む榊本慶太たち。それに遅れて莉亜も奥さんにうながされて席に座った。


「もしかして、ふたりは知り合いなのかしら?」


 困惑気味の奥さん。その発言でそれぞれの関係が気になっていたのは、莉亜だけじゃないのが証明される。


「…………会う機会がないと思っていたので」


 徐々に口が重たくなる慶太は、莉亜に一瞬だけ視線を合わせるとすぐに戻した。

 それが何を意味するのか、莉亜には見当もつかない。ただ、目の前にいるふたりの空気が重ぐるしく変ったのだけはわかるのだった。


「彼女今……家に下宿を…………特に話す必要はない……と」

「そう――――――気を遣わせてしまっていたのね」


 奥さんがそう言うと慶太の方から視線を莉亜に移した。


「何も知らされてなかったのね、片瀬さん……あなたも」


 莉亜はただ奥さんの言葉に頷くしかできないのだった。その言葉通り、何も知らないし、この状況では何も理解できない。


「……そうねぇ何から説明すればいいのかしら――――――――」


 目を細めた表情で遠くを仰いだ奥さん。今までで一番穏やかな口調で話し始めた。


「――――――慶太くんは那桜の父親よ。そして、那桜の母親は……私の亡き娘―――――――私は彼の義母になるのよ…………あの日初めて会った時……それはそれは心臓が止まるくらい驚いたわ。娘が生き返ったかと思うくらいに――――――うりふたつのあなたに」 (第6・22・23話参照)


 自分を落ち着かせる為一呼吸して、また話始める。


「――――――彼も私も悪気があったわけじゃなくて、ただ、それを伝える勇気がなかったのね――――――あなたに知られるのが怖かったのかもしれない。お願い、彼だけは責めないであげて」


 口を強く一文字にする莉亜。今までの慶太の行動を思い出すと少し間を置いて答えた。


「……責めるだなんて……あたしの方こそ何もわかってなかったんです――――――自分が無神経過ぎて……なんて言えばいいのか」

「……君は悪くないよ…………だから何も言わなくていい。ただ、これ以上那桜に関わらないで」

「ねぇっコッチとコレ、どっちが好き?」


 那桜が急にふたりの間から現れるとそう質問する。お皿からクッキーとビスケットを交互に莉亜と慶太へ見せる。

 思いもよらないタイミングで、呆気にとられたふたり。

 那桜がお皿をテーブルに置いてから、莉亜と慶太の間にある椅子にチョコンと座って、こう言うのだった。


「ぼくはね、どっちも大好きだよ。パパもおねぇちゃんも食べてみて」


 そう言って、それぞれにお菓子を渡す那桜。渡されたクッキーを莉亜がひと口かじる。


「おいしいね。おねえちゃんもね、ふたつとも大好き」

「じゃあ、ぼくと一緒だね! パパもおいしい?」


 手にあるビスケットを食べてから目を細める慶太。


「――――――ああ、すごくおいしいよ」 

「よかったぁ」


 莉亜はあんまりにも嬉しそうな顏で笑う那桜なおが、無邪気で羨ましくなるのだった。

 そんな那桜の満面の笑顔に、慶太の表情が和らいだ。

 彼はすごく愛おしそうに那桜に微笑むと大福の様な柔らかいほっぺたを指で優しくなでるのだった。


◆◇◆◇◆


 那桜との楽しい時間を過ごし終わって、玄関を出た時だった。

 莉亜だけが先に帰る事になり道路に出た所、慶太に呼びかけられる。


「ちょっと、ふたりだけで話があるだけど」


 慶太が莉亜に力強くそう言った。

 駅への道をふたりはただゆっくりと歩き始める。何も言わない沈黙の時間だけが、しばらく続いた時だった、慶太が話をし始める。


「……那桜の事、誰にも知らせないでほしい。何も見なかった事にしてほしい」


 その言葉に答える術がない莉亜はただ黙って彼の話を聞いた。


「それと、もうひとつ――――――那桜にはもう会わないでほしい。あの子にかまわないでほしいんだ」 


その言葉には違和感を感じて、思わず言い返さずにはいられなくなる莉亜だった。


「でも……帰り際、また遊びに来てって、那桜くん言ってたのに? 約束したんだよ、それを破れって事?」

「そうだよ。今その約束を守れても、これから先は? それに君はなんのつもりでその約束をしたの?」


 慶太にそうとがめられた莉亜。たじろぎながらも答える。


「つもりも……何も、ないでしょ……」


「だからだよ――――だからもう関わらないでほしんだ。今のあの子は遊び相手を求めてるだけにみえるかもしれないけど、いつか君に母親を求める様になる。

君はそうなった時、応える事ができないだろ。その気まぐれな優しさや同情をふりまく事で、那桜が辛くなる事がわからないのかな、君には?」


「確かに…………それでも……それでも周りに何かあったら相談とか、些細な事とか話せる人間がいたほうが――――――」

「それは君の役目じゃない。出会って間もないから……だから、これから先も会わないでほしいんだ」


 間違いのない言葉が、莉亜の胸に突き刺さると何も答える事ができない。

 慶太はそれ以上何かをいう訳でもなく、彼女の傍を静かに離れるのだった。

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