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間話 日本では相変わらずな日々

 色鮮やかな屋根をしたオシャレな家や真新しい高級・高層マンションがある街並みの中、そこにはひと際、古い家が建っている。

 それは黒い瓦の屋根がトレードマークの家。他の一軒家とは明らかに違う雰囲気。今時の町並みにういている家こそが莉亜の下宿する榊本家。

 

 二重の丸い瞳が可愛いらしい印象の好青年。茶髪のサラサラとした毛を少し揺らしながら、意味なく家の1階から2階を徘徊している。

 落ち着きがななく、ソワソワした様子の好青年はこの家の住人で、榊本良人。


 良人は5分前に上ったはずの2階へまた上る。

 2階には階段から続く廊下。

 左右には廊下を挟む様にして壁がある。その壁にはそれぞれ左右3つのドア。そして、廊下のつきあたりにはもう1つのドア。


 全部で7つある部屋から、迷わず良人はひとつの部屋を選んだ。

 部屋はアメリカから送られてきた荷物がバランスよく配置されている。

 そう、この部屋には片瀬莉亜の家具が既に設置済みになっていた。

 

 たったひとりで良人が下心――――もとい、淡い恋心から、遥々来る莉亜の為に夜中から朝方にかけてセッティングした。寸分の狂いもなく、彼の目の前にはキチンと家具が並んでいる。

 良人は満足げにその部屋を見渡し、顔が嬉しさで自然と緩むのだった。


「片瀬さん喜んでくれるかな? くれるといいんだけど……」

「部屋見て何ニヤニヤしてんだよっ、気持ち悪りぃな」


 と、良人の背後で眠そうな表情の男が、ものすごく気持ち悪そうに言うのだった。


 男性は良人よりガッチリとしている身体。色黒でいかにもスポーツ青年と言う感じだ。

 そして、話し方は男らしく荒い口調、目は良人と比べると鋭い。そんな男性がいつの間にか良人の背後へ立っていた。

 驚き振り向いた良人の口からは、思わず彼の名前が飛び出す。


「うぉっ、祐大っ」


 ビックリして、手元のドアノブからいつの間にか手を離していた。

 

(いつから居たんだよ? こいつ) 


 音も立てずに背後にいた榊本祐大を怪しむように見る。それから、良人はドアを閉めながら何食わぬ顔で、彼へシラをきった。

 

「いや、別に俺は何も」 


 良人は一切祐大へ視線を合わせようとしない。

 シラッばっくれる良人を見ると面白くないと感じた祐大。

 自分に対して調子こくとは、いい度胸してんじゃねぇか、と思いながら、彼をイラだつ感情に任せて、おちょくる。

 

「良人っ、よだれっよだれ!」


 良人の緩んだしまりのない口元を、祐大が突然指差した。


「っえ――――って、んなわけないだろ!」


 悪のりした祐大にツッコンだわりには、しっかり自分の緩んだ口元を腕で拭う良人。

 祐大は良人が自分の言葉に引っかかったおバカな姿を見て、半場呆れるのだった。


(よく言うぜ、その割にはしっかりと口拭いてんじゃね~か――――――バ~カ)


「どうせ、下宿にくる女の事でも考えてたんだろ」


 祐大の決めつけた物言いに対して、良人はとりあえず下手な言い訳を試みる。


「いや、別に考えてたわけじゃないんだ」

「よく言うぜ。朝から落ち着きなく、家中ウロウロしやがって。うるさくてゆっくり寝られやしねぇよ」 


 良人は苛立っている祐大を申し訳なさそうに見る。彼の言葉で今度は深く反省した。

 

「それはごめん……」

「今からは静かにしろよな。うかれるのはお前の勝手だけど、いい加減にしろよ」


 そう言って、祐大が何もかもお見通しだからなっ、と言わんばかりに口元をニッと吊り上げる。

 内心、良人はその言葉にギクリとするのだった。


「な……なんだよ、その――――何か、言いたそうな顏は?」 

「まぁ~な。良人……みなまで言うな」

「何をだよ?」 

「さては、お前、惚れたな」

「ちち違う、違うんだって。な、何言っちゃってるの?」

「なんだよ、隠してんじゃねぇぞ。誰でもわかるって」

「ちがっ――――ただ落ちつかないんだ。ちゃんと彼女無事に日本に着くか」

「んっとにそれだけか?」

「そ、それだけだよっ。し、しつこい奴だな」


(どうでもいい事にはやたらす、鋭い奴だな……こいつ)


 感の鋭い目から逃れる為、良人は祐大から顔をそむけるが、それでも、どもる声だけはどうしようもなかった。


「そっそそれだけって訳でもないからな。リュ、龍も確か今日帰ってくるはずだろ?」

「……ついで、的な感じだよな――――龍の事は」

「つ、ついでじゃないぞ、念を押すけど。あ、あいつの事も俺は心配だよ」

「まっいいけど、俺にはどちらにしろ、どうでもいいからな」


 祐大の冷めた態度に対して、良人の人良さげな表情が変わった。

 これまでの言動には我慢していたが、とうとう怒りが爆発。


「そんな言い方ないだろ。龍之介の事心配じゃないのか? 俺はふたり共心配なだけだよ」


 良人の言葉で祐大の眉間には深いシワが刻まれる。


「俺はお前みたく、人間ができてねぇからな。他人を心配できるような人間じゃねえよ」


 と、祐大の悪意ある言葉は、良人への嫌味が溢れんばかりに言い返した。


「心配するのに人間性とかは関係なくない? それに俺たち兄弟だろ?」

「そう言うとこが、またうぜぇんだよ――――いちいち」

「なんだよっ、うぜーって!」


 廊下に良人の声が響くと、彼らが立つ部屋の向かいからドアを開ける音がした。

 お互いの襟首を握るふたりは音が聞えた方を見るのだった。

 

 ドアからはメガネをつけた男性が顔を覗かせる。

 迷惑そうな表情をした男性が、落ち着いた口調でふたりをたしなめる。

 

「……静かにしてくれるかな。朝から近所に迷惑」


 妙に落ち着いた話し方が、ふたりとは格が違う事を物語っている。それに付け加えて冷静な性格が、兄弟にさえ、時々冷たく感じるのだった、今この時も。

 怯む良人たちへ、メガネの男性は表情一つ変える事なく、ふたりに視線を送った。


「ああ、悪い。兄貴」


 祐大のあとに続いて良人も、ドアから顔を覗かせた男性に答える。


「ごめん、慶太。朝からうるさかった?」


 慶太と呼ばれた男性は祐大の双子の兄で、彼らは一卵性双生児。

 祐大のほうは全体的に短めで左右の長さが違う髪形。


 慶太のほうはインテリ風のオシャレメガネを掛けて、髪形は緩いパーマを全体的に掛けたフワっとしている。

 

顔が瓜ふたつでも性格、話し方、服の好みなど、他にも色々違う点はあるが、挙げればキリがない。

 そんな双子の兄は顔だけ部屋から出して、彼らに皮肉っぽく言う。


「朝からそんなにもめる様な重要な事、ふたりに――――あるの?」 

「いや、ない。ただ、こいつが朝からドタバタうるせぇーしっ」


 祐大が良人を指して訴えた。

 良人も負けずに言い返す。

 

「だから、祐大っそれについては何度も謝ってんじゃん!」


 ふたりの言い合いに呆れた慶太は、声を少し荒げる。


「その方が朝からうるさいし、近所迷惑。くだらない争いはやめてくれよ」


 良人は不満げに慶太へ言う。


「くだらない事じゃ……ないと」

「じゃっどれだけ重要な事なのか、教えてもらえるかな?」

「重要とかそういう問題じゃくて、コレは……」

「なら――朝から子供じみた喧嘩やめろよ、ふたりとも」

 

 慶太の言葉に意表を突かれた祐大。


「俺も? 兄貴俺の事を含む事ないだろ」


 祐大の言葉は、当然反省の言葉じゃなく、口答えだった。

 そんな双子の弟をキッと睨みつける慶太。そして、容赦なく彼をも冷たくあしらう。


「祐大、お前も同罪」 

「へぇ~へぇ~わかりましたよっ兄貴」

 

 慶太は減らず口を叩く祐大を、見事に無視。

 マイペースに話を再開させる慶太。


「それから、夜中に模様替えはやめてくれよ。非常識なおかつ、迷惑だ」

「ホントっ昨日からうるせぇーし、寝不足だ。その上、また朝からコレだしな。いい加減してくれよっこちゃもんすごく迷惑してんだ!」


 苛立ちを再度良人へぶつけた祐大。矛先は当然一番弱い立場の人へ。今までのうっぷんを晴らすかのように言い放った。

 祐大は自分の部屋へ戻る。

 慶太も言いたい事を言い終わったらしく、サラッと部屋に引っ込んだ。


 良人はただ茫然ふたりを見送るだけしかできない。双子へ文句を言い返したかったが、言える度胸もなく、ひたすら無情な仕打ちに、ただただ廊下に立ちつくすだけだった。


(いつも嫌な事は押しつけるくせに……今度の事だって、俺だけで)


 この仕打ちで、片瀬莉亜の両親から手紙が来た日を思い出すのだった。

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