37ー③
榊本家を出た莉亜は電車に乗車して、この間出会った家族の家に向かった。その駅は榊本兄弟全員も通う大学の最寄駅で、近くには市営の図書館もある。
大学の図書室で以前榊本慶太とやりあってから、今は市営の図書館が伸び伸びと勉強できる莉亜の貴重な場所になっているのだった。
彼女は目的の駅に着くと、足早に改札を出る。視線の先には見覚えのある姿。その姿は相性がいいとは言えない慶太だった。
(あれっ……慶太さん……授業は今日ないはず……)
声を掛けようと慶太の方へ歩き出すが、莉亜は足を止めた。
慶太の手には生き物を入れる透明のケース。よく見るとその中には緑色の生物の姿があった。チラチラと姿をみせるその生物は、いつか見た未知の生物。
(この前見たやつだ……あたし、爬虫類はダメ、この間で……拒絶反応が――――――)
爬虫類を発見した莉亜は足がすくんで動けない。後ろ辺りで固まる彼女に全く気づいていない慶太。当然、そのまま立ち止まる事もなく前に進んで行く。
結局、声さえ掛けられない。あれから爬虫類系を見ると悪寒がする始末。近くにいるとわかるだけで身体が動かない。
「あっ――――――」
慶太の歩いて行った方向を、莉亜はただ目で追いかけるだけしかできなかった。
「……っ行っちゃった」
仕方がないと言った感じの声が、思わずもれる莉亜。
(でも特に声掛けるほどの……用もなかった……しね)
最後はそう自分の中で思い直した莉亜は、目的地に向かうのに駅から出て歩き出す。この前帰った道を今度は、あの家族の家に向かって歩くのだった。
駅から五分ほど進んだ住宅街に着くと、そこからまた並木道が続いている。
何度か曲がり角を曲がると、数十メートルで到着した。
早速、インターホンを押そうと腕を伸ばす莉亜。ボタンに触れたのと同時にピンポーンと軽快な音が鳴り響く。
待つ事数分でインターホンから、女性の声で応答。
「はい、どなたでしょうか?」
それは、この家の奥さんの声だった。
問いかける声に、いつもよりトーンが高くった声の莉亜は早口で返す。
「この間はありがとうございました」
「あら、その声は片瀬さんね」
「あっそうです、片瀬です」
「今開けるのでお待ちくださいね」
「はい」
最後に莉亜がそう答えてから数十秒後。
「あら、いらっしゃい」
奥さんのその声と同時に玄関のドアが開く。
玄関ポーチを挿んで、奥に見える奥さんに答えた莉亜。
「こんにちわ、突然すみません」
「いいのよ、連絡さっき頂いてから、那桜が、ずっとあなたが来るの楽しみにしてたのよ」
そう言いながら、笑顔の奥さんは玄関のドアを開けたまま、玄関ポーチの階段を下りて来る。
莉亜の行く手を阻んでいた柵の鍵を開けるのだった。
玄関ポーチには意外にも、もうひとりいた。いつの間に玄関から降りて来たのか、那桜がヒョッコリと現れる。
莉亜が那桜だとすぐ気が付いた瞬間だった、嬉しそうに目を輝かせた彼は、彼女よりも、もっと後ろにいる誰かに焦点を合わせている。
「パパっ!」
その弾む声は抑えられない模様。
今までないくらいの那桜の喜びが、莉亜にも伝わってくる程だった。




