36ー②
「悪趣味ですよ、人が悩む姿をみて、面白がるなんて」
「まぁ、そう言うな。それよりも悩みの中身を聞けば、もっと面白いかもしれんが」
「だから、面白がらないで下さいってばっ! それに言うつもりなんかないですよ」
「まっ言わなくても君たちが悩む事なんて、だいたいは察しがつくけどね」
「じゃあ、教授が当てれたら教えますよ」
軽いノリで小野寺教授へと売り言葉に買い言葉って感じで答えた莉亜。
「いいだろう。では――――――恋、人間関係、成績、レポート、あるいは、将来の事。これらに関する事だろ?」
「ちょっとっ! そんなに言うなんて、ズルですよっそれっありなんですか?」
「ありだよ、ずるくないさ。それにひとつだけとは指定しなかったの――――――君だからね」
反論する気にもなれず、複雑な表情の莉亜。
(相変わらず、会話するたびに感じるけど、ホント大人げないんだから)
呆れた様子の莉亜は仕方なく会話を再開するのだった。
「……とりあえず、悩んでた事を話しますね」
「で、何をあんなに悩んでたんだ?」
「……一応断っておきますが、友人であたしの話じゃないですからね」
「ああ、わかった、わかった。友人ね…………じゃ、早くその友人とやらの話をしてくれ」
莉亜は小野寺教授に催促されると、今自分が悩んでいる事を色々話した。
「ふむ……随分友人はまわりくどいタイプのようだね」
「まわりくどいタイプ?」
「ああ。そうだ。嘘をついたり、直球勝負しないとこがね」
「それは彼女にも色々事情が……タイミングとか、他諸々に」
「ほほう……まぁその事より、問題なのは好意ある相手との前戯を拒んだ事だね。まだそう言うタイミングじゃないから、待て、ならわかるが。
友人は彼との話し合いの時も、その事については否定した。だから、それが問題だな。その上、自分を正当化しただろ」
「でも、一緒にいるだけで楽しいならいいんじゃ」
「だから、問題だと言ったろ。男と女が付き合うって事は、愛し合う事。つまりは性行為で、誰もがいつか通る道なんだよ」
「でも、それが理解できない――――――から」
「悩んでるんだろ。言っておくが、別に身体の関係を勧めている訳じゃない。いつか心も身体も十分に準備できる日がきたなら、そういう事も自分自身がおのずと求める日がくる。今は彼女にとってどちらも不十分だったんだよ」
「……不十分――――――ね」
「そもそも俺が思うに、これはペットがご主人様を恋しく思うのと同レベル。たまにペットも人に対して、まるで恋をしているか様に恍惚した表情をする者がいる。それと一緒のレベルだよ」
「それ――――――いくらなんでも、飛躍しすぎじゃ……」
「これぐらいの表現の飛躍じゃなきゃ、普通の例じゃ、まだ理解できないようだからね――――――人間の女として恋できる相手がみつかれば、彼氏がした行動もいずれ理解できるようになるさ。まっどっちにしてもだ。いつかは率直な気持ちを伝えることだね。嘘の事も含め」
「…………はぁ」
と、ピンとこないといった表情をする莉亜は、曖昧な返事をするしかなかった。そんな彼女の様子に、余計なひと言を言う小野寺教授。
「あっそれと言い忘れたが、その気になってエッチするなら、ちゃんと避妊を」
「てかっしません。それにここでそういう事を、大きな声で言わないで下さいっもう!」
急に顔を赤くさせた莉亜が自分のノートやらを矢継ぎ早に片付けると、その言葉を最後に講義室を急いで出て行く。そんな彼女の行動を理解できずにいる小野寺教授は、首を傾げたまま、彼女の後ろ姿を見送るのだった。
「なにを今さら……そんな恥ずかしがってるんだ――――――さんざんすっとぼけて、自分の相談してたのに」




