34ー②
ひと筋の明かりがドアから射して、うな垂れた良人に重く閉ざされたドアが開いた事を知らせるのだった。
「泥棒覚悟っ」
女性の言葉と同時に頭に激痛がはしる良人。何度が殴られて、このままだと殺されるっと思った良人は必死に声を出す。
「違う、落ち着いて! 俺はこの家の住人だから」
「えっ住人っ!?」
そう言った彼女は手に持った何か棒状の物を振り落す事を止めるのだった。
マジマジと良人をみる女性。
「もしかして、あんたは榊本良人?」
「そうだよ。そう言う君は藤堂由香さんだね?」
「その不格好な姿。ひとりで何やってんのよ?」
「これは祐大が―――――――」
説明しようと良人は思ったが、祐大が企んでいる事を阻止するのが先決だと気づくのだった。
「それより、片瀬さんの身に危険が迫っているんだ。高原くんが今夜彼女と関係を発展させる気かも」
「なんで、そんな事になってるわけ?」
「おそらく祐大が関わっているはず。俺を意味深な事を言って閉じ込めたくらいなわけだし。今は急いで片瀬さんの部屋へ行こう」
「なんかわからないけど、わかったわ」
由香が良人を立たせてから、す巻の状態の彼とふたりで莉亜の部屋へ急いだ。
良人はその所まで記憶をたどり終わらせると話を終える。
「という感じで、後は片瀬さんが見た通りの事が起こって、今に至るってわけさ」
話終えた良人は、今も痛む頭を手で気にする素振りをみせた。頭が痛むのは、由香が開かないドアに、自分の頭をブチ込んだから。火事場の馬鹿力で自分を抱えて突進。人間非常事態になると何をするかわからないな、と頭の痛みで痛感した。
そして、ベッド横にいる莉亜は、良人の様子に、申し訳ないとばかりに、椅子の上で身を縮めるのだった。
「良人くんホントに大丈夫? あたしのせいでごめんね」
「大丈夫大丈夫――――――イツッ」
そう言ったそばから、声が思わず出た良人。恐る恐る痛む場所に触れる。その痛がる様子をいたたまれない表情で見守る莉亜。突然、それまでの遅れを取り戻すように、彼女が立ち上がる。
「ヤダッあたし、気が利かないね。すぐ冷やすもの持ってくるから、待ってて」
「うん、お願いするよ」
慌てて部屋から出ようとした莉亜に、そう言って良人が微笑む。
それが余計に莉亜の胸を辛くさせた。自分のせいでこんな目にあわせてしまった事に、胸がどんどん痛むのを止められないのだった。
部屋を出ると急いでキッチンにある冷蔵庫へ行く莉亜。
冷凍庫部分の扉を開けると、先程見つけた水枕片手に、ゴム製の水枕へ氷を詰める莉亜。
「おいっシケた顏してんな?」
莉亜がその声で顔を上げた。自分のすぐそばに祐大がいる。
驚くよりも少し呆れている気持ちが強い莉亜は、伏目がちに彼に言葉を返した。
「祐大くん……良人くんから話は聞いた……から」
「俺にお礼でも言いたくなった? 遠慮なく言っていいぜ」
祐大のその物言いには、ただの1ミリも理解する事すら出来ない莉亜。その態度にイライラが募るのだった。
「なわけないでしょ。良人くんを閉じ込めて、ほったらかしにしたあなたに、どうやったら感謝するの? するわけないじゃない」
莉亜が口を開いた時には、言葉は何倍も鋭く尖ったものになっていた。それでも反省する素振りも欠片もない様子の祐大。




