第34話 もうひとつの救出劇
「良人くん、良人くんってば!」
「んっ…………ん~ん――――――――」
痛みを堪えた声を出しながら、眼を開いた良人。目の前には自分を心配する莉亜の顔がぼんやりとかすんで見える。
「いっつ……片瀬さん」
「大丈夫。何があったの? どうして、良人くんがこんな姿なの?」
「痛たたたた……それはよかったら、あとで詳しく話すよ。今は布団から解放してくれるかな?」
良人はそう言って過剰につくり笑いをして、莉亜へ微笑んだ。
◆◇◆◇◆
「じゃあ、全部あたしのせいなんだね」
「違うよ、何もかも暴走させたあいつのせいだ。片瀬さんのせいじゃないさ」
布団のす巻地獄から解放された榊本良人は、自分の部屋のベッドにはいるが、布団の中に寝たいとは到底思えないのだった。
確かに寝た方が身体的には楽に慣れそうだったけど、今はもう包まれたくない心理の方が強い。
そうつくづく感じていた良人はベッドに座ったまま、片瀬莉亜に事情を話すのだった。悲しげな表情の彼女を慰める為、軽く彼女の手に触れる。
「ごめんね……部屋に閉じ込められた後は?」
「うん、それがさ――――――」
良人はそう言うと、祐大に閉じ込められた後の事を思い出して、話始めた。
◆◇◆◇◆
榊本祐大が出て行ってから、良人はずっと助けを求め続けていた。喉は乾き、声はガラガラになりながらも、言葉を発する事をやめる事はなかった。
良人の願いが叶ったのか、祐大が出て行ってから、初めて人がいる音が廊下の方でするのだった。
ドアの向こう側に向かって声を出そうとする良人。
ところが、声がかすれるだけで真面にでない。すぐに通り過ぎてしまうとわかっていても、喉を酷使していたせいで、自分の声が出ない事にもどかしさと焦りでうまく声が出せないでいた。
(……やばい、声じゃ何も伝わらない。落ち着いて考えろ――――――)
良人は焦る中、頭をフル稼働させると、閃いた。
(そうだっ音だ。音でいいんだよ。中に人間がいることを教えるのには…………)
そう思った良人は全力です巻にされている布団を身にまとった身体を動かすと、右往左往と動かす身体の一部が、部屋中の物にぶつかり、ひとりで不協和音を奏で始めた。
(頼むから、気づいてくれよ)
そう願った良人の思いも空しく、廊下を通り過ぎたらしく、誰もドアを開ける事はなかった。希望を打ち砕かれると同時に、布団からヒョッコリ出ていた頭はそのままうな垂れた。
(……ダメだった…………のか――――――)
部屋の床みしか見えない状態が、更に追い打ちをかける。事態は自分が考えたよりも深刻だ、と今更ながらに気づかされる。こんな状況では悲観的な考えしか浮かんでこないのだった。




