♡第33話 予測不能な彼ら
「これでヨシッと」
榊本祐大は満足そうにそう言って携帯を自分のポケットになおした。さっきから耳障りでうるさい声のする方へ、顔を向ける。
そこには良人が布団で太巻きの具のように巻かれている、とは言ってもやったのは自分だが。脳裏には少しやり過ぎたかもしれない、という感情が生まれた。
そして、祐大は不敏そうな目、を今になって初めて良人に向ける。
良人はその瞬間を見逃さなかった。
それは自分を無視し続けた祐大がやっと少しの反応をみせたからだ。祐大に向かって必死に腹から声を出して呼ぶ。
「ぉぃおいっオイってっ!」
「うるせぇ~な」
と、うざそうに答えた祐大に腹がたつが、今はそれよりもこの状況を聞くのが先決だ、と悟った。
「これはどういう事なんだよっ祐大」
首だけしか動かせない良人が、自分の全身を動かぬ腕の代わりに顔で指した。
良人の穏やかならぬ顔は今にも祐大に噛みつきそうな雰囲気。それでもこの未だ解けぬ謎を答えてくれる唯一の人物に問いかけるしかないのだった。
「あっそれ?」
「そうだよ、これ以外なんかあるか?」
良人がそう答えてから、殺意のこもった瞳で祐大を睨む。
「お前が恋人たちの時間を邪魔しようとするからだよ」
「邪魔って何もしてないだろ?」
「お前も鈍い奴だな。今ふたりの気持ちが高ぶってんだからさ。あそこで現れたら、ダメだろ。事が終わるまで、しばらくここで大人しくな」
「えっそれどういう」
と、良人が話終わらない内に祐大は情け容赦なく部屋から出るのだった。
「意、味―――――――だよ」
誰もいなくなった部屋で力なく言葉を発する良人、それは祐大に届くはずだったもの。もちろん、その言葉は虚しくただ空間を震わせるだけだった。
静まりかえる部屋でしばらく動けずにいる良人は意気消沈しかけていたが、ある事が頭を過ぎる。
「って、このままだと…………」
祐大を呼び戻す為、彼が出て行った扉に向けて必死に叫び始める。
「祐大、トイレっトイレどうすんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
良人の声は虚しく部屋にこだまするだけで、祐大からの返答はないのだった。
「これ――――新種の…………冗談だ、よな――――――――――――ウソ…………だ、ろ――――」
部屋に独りきりにされた良人は、ただただこの状態に絶望するしかなかった。
◆◇◆◇◆
一方、莉亜の部屋では、祐大のやらかした事を黙認する事で腹をくくった学が、ドア前から離れない彼女を誘う。
「リアちゃん、良人さんの事はもういいから、僕と話をしよう」
学がそう言って、莉亜の腕を掴んだ。
いつもと雰囲気が違う学に莉亜も薄々なにかを感じとると、強く引っ張られて体制を崩した。彼女はベッドに尻もちをつく形で、そこへ座った。




