32ー③
冷蔵庫から麦茶を取り出して入れ終わるとひとり気合いを入れる榊本良人。
「さてと、持っていくかな」
ふたつのガラスコップに入った麦茶を見て複雑な気持ちになる良人。もしかしたら、これを飲んで楽しく会話をしていたのは自分だったかもしれないのに、と感傷的になるのだった。そう思っている内にやるせない思いがジェラシーに変わる。
「ついでに、いい雰囲気の時を見計らって部屋にって、俺最低……だな」
(でも、どうしても諦められない。片瀬さんは彼の事、ホントに好きなのか……な)
ひとり自問自答をしながら、さっきの莉亜の態度を思い出した。その態度を見ていると莉亜の学への気持ちがよくわからないのだった。
「それにしても、まるであれじゃ女友達とのお茶会。片瀬さんって相当鈍いな。にしても、今日はそんな行為がないにしてもだ――――――これから先、ふたりの関係が発展したら……俺――――――――」
突如、鋭い痛みが頭に。その痛みでハッと我に戻った良人。気づくとすでに莉亜の部屋の前にいた。
(あ、頭が痛いって……か、鈍痛が――――――)
意識がまたいつかみたいに薄れていく。
しばらくして、頭の痛みで目が覚めると、何故か体が動かない。身体をバタバタ動かしているとある事に気づいた。
(確か、片瀬さんの部屋の前だったはず)
目の前は確かにドアだけど、部屋の前のドアじゃなく、部屋の中のドアだった。しかも、見覚えのあると言うか思いっきり自分の部屋ん中にいる。
何がどうなったのか、全く分からなかい良人。そこへ現れたのはひとりの人物だった。
◆◇◆◇◆
良人が来るのを机の椅子に腰かけて待つ片瀬莉亜。
莉亜とは裏腹に落ち着かないようすで、ベットから立ち上がる高原学。そして、本棚の方へ行くと興味もないのに本を手に取ってみたり、中身をパラパラと見ると棚に戻したりとかなりナーバスになっていた。
「おかしいなぁ」
莉亜が部屋の扉を見ながら、誰ともなく言う。
過敏になっていた学が彼女の言葉にも過剰に反応した。
「え――――――っと、何が?」
「それが、良人くんがお茶入れて持ってきてくれるはずなんだけどね」
首を傾げながら莉亜は不思議そうに答えた。
学には思い当たる事がある。たった今良人が来ない理由を知ってしまったのだった。
莉亜に気づかれないよう、自分の携帯の画面をもう一度ゆっくりと覗き見る。
そこには、メールに添付された写真と共に、ひと言だけ書いてあった、自分に向けてのメッセージ。頑張れよっ、とだけの、五文字が――――――そして、添付画像は見るも無残な良人の姿が写っていた。




