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32ー②

「何してるの――――――ふたりで?」


 ただ事ではないその不愉快そうな声の主を片瀬莉亜と榊本良人が振り返りみる。


「あっ学くん……」

 

 一言だけ言うと莉亜は固まったままで、良人も何も言えないでいる。

 声を出せないでいるふたりにお構いなしで話を進める高原学。


「どうしたの、リアちゃん。僕……待ってたんだよ?」


 眉間にしわを寄せ、悲しげな表情でそう言った。

 困った様子の莉亜に代わり、良人がフォローをいれる。いつになく落ち着いた声で答えた。


「ああ、ごめんな……学くん。少しだけ彼女かりたよ」


 良人は優しくそう言うと親しみを込めて学へ微笑んだ。それが決め手になったようで冷静さを取り戻した様子の学。


「なんだ、手伝ってただけなんだね」


 と、声を掛けた良人ではなく、学は莉亜の方を見て顔をほころばせた。

 そんな学に戸惑いながらも返事を返す莉亜。


「まぁ……うん」 


 莉亜の返事を聞いた学は、ふたりの事がふっ切れたようで、安堵している。


「優しいね、莉亜ちゃんは」

「そう言うのじゃ……ないんだけど――――――」


 学の言葉に苦笑いで莉亜は答えてから、改めて思うのだった。


(だって、あたしのせいで――――良人くんが色々大変なのは……)


 心中複雑な思いをひとり抱くのだった。

 莉亜はそんな気持ちを切り替える為にも、学に話しかける。


「学くん、先に部屋に行ってて。飲み物入れたらすぐ行くから」

「うん、わかったよ」


 莉亜の言葉の通りに、学は二階へ戻る為、キッチンを後にするのだった。


「……なんか――――約束してたんだ?」


 学が部屋から出終えたのを見計らって、良人が莉亜へそう尋ねた。


「ううん、特には。ふたりきりで話をしたいんだって」

「ふ~ん、そうなんだ……」

「そう――――――みたいだね」


 首を不思議そうに傾げる莉亜。彼女の煮え切らない返事に、良人はそれとなく探りを入れる。


「なんか大事な話でもあるのかな?」

「う~ん――――――久しぶりだから、ゆっくり話したいだけだと思うけど」

「なら、いいんだけど」


 莉亜はそう言った良人の言葉が気になるようで、逆に問い返す。


「それとも、他に……なんかあるっけ?」

「いやっなんでもないから、気にしないで」

「う、うん――――――そうだっお手伝い少ししかできなかったけど、ごめんね」

「いいよ、いいよ。飲み物なら俺が持ってくから、片瀬さん行ってくれていいよ」


 良人の言葉に心もち考える莉亜。でも、すぐさま答えるのだった。


「だね……さっきまで学くん怒ってた感じだったもんね。じゃあ、お願いしようかな」

「うん、手伝ってくれて助かったよ」

「ううん、全然だよ。こちらこそ気を使ってくれてありがとね」


 シンクの収納扉に吊るしたハンガーにあるタオルで、順番に両手を拭いていくふたり。

 拭き終わった莉亜はそのまま一直線に出口へ向かって歩こうとしている。そこへ良人が最後に彼女へと声を掛ける。


「すぐお茶の用意したら、部屋に行くよ」


 声を出さずに莉亜は晴れやかな表情で良人に応えた。

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