第3話 最悪な旅立ちと出会い
片瀬莉亜は搭乗手続きを終えても空港フロアに学がきていないか、何度も振り返る。
すると、間違いなく視線の先には学が――――――彼の姿を確認した瞬間、他の搭乗客にゲートの先へ追いやられてしまい、結局は飛行機に搭乗するのだった。
乗り込んだ莉亜は座席を確認して、頭上の荷物入れに手荷物を収納して座る。
莉亜が物思いにふけっている間、飛行機はトラブルもなく、空港を離陸するのだった。
離陸から時間が経つと、通路を挟んだ向こう側の窓の外を見飽きた莉亜が、ふと隣にいる男性へ、視線を向けた。
隣にはチャラい感じの男性が座っていた。暇つぶしに気づかれないよう、男性をなんとなく観察。全体的に少し長めの茶髪。肌はやや褐色ぎみ。特に目鼻立ちがハッキリとした美男子。
そして、容姿や顔から判断すると同じ年代ぐらい、と莉亜が考えていた――――まさにその瞬間だった。
「あの――、」
と、隣の男が声を掛けてきた。
予想できない出来事に、莉亜は動揺をするのだった。思わず、迷惑そうな顔をする。
「な、なんですか? 何か用ですか?」
それまで、さわやかな笑顔だった男の表情が変化する。ピクっと片方の眉毛を上げた。
「愛想がない態度だな」
「ヘラヘラして、愛想がありすぎる貴方よりマッシです」
「俺がいつヘラヘラした?」
「今、してた様にあたしには――見えましたけど」
「俺のは愛想笑いって言うんだよ。まぁ、アンタのその仏頂面よりはマッシだろ?」
「――貴方、女性には優しくしなさいって習わなかったの?」
「女性ね……それはそれは失礼、お穣ちゃん」
それ以上返すだけ、動力の無駄と感じた莉亜は、プイっと男の反対側に顔をそらすのだった。
「――――ったく、可愛くない女」
座席に肘を突く男。呆れた表情で小さく呟いたのが、しっかりと莉亜の耳に届く。
「……なっ、」
莉亜が言い返そうとした時、制服に身を包んだ1人の女性が、彼女たちの座席の目の前に現れるのだった。
「あのお客様、お静かにして頂けますか? 他のお客様が痴話ゲンカをうるさいと申されておりまして。もう少し、小さな声でお願い致します」
キャビンアテンダントは通路にしゃがみ、見事な営業スマイルでやんわりと注意した。通路側に座っていた莉亜が申し訳なさそうに謝る。
「すみません」
「お願いしますね」
そう言って、笑顔を浮かべたC.Aが立ち上がる。彼女は自信に満ちた表情でさっそうと自分の持ち場に戻って行くのだった。
「あなたのせいで怒られたじゃないですか!」
「それはこっちのセリフだ」
「それにカップルって、誤解されて迷惑ですっ」
「オタクも迷惑かもしれないけど、こっちはそれ以上に大迷惑してるよ、誤解されてな」
「なっ……声掛けてきたのはそっちでしょ?」
「ケンカ売ってきたのはそっちが先だろ?」
「別にケンカなんか売ってません。それに」
莉亜は自分からこんな事を言ってもいいものか、と言葉を止める。そんな詰まる彼女の言葉をオウム返しで聞く、チャラ男。
「それに――――なんだよ?」
モジモジして、口をゴニョゴニョさせる莉亜。視線を合わせる事ができずに、両手のひと指し指の先を何度もグルグル回しながら、落ち着きのない態度。
「どうせ、ナンパでしょ? だから、声掛けてきたんでしょ?」
「……はっ――――誰が?」
「だから……あなたが」
「誰を?」
「あたし――――を」
莉亜はとうとう自分の事を指してアピール。が、男の質問攻めにだんだん自信がなくなる始末。
痛い子を見るかのような慈悲に満ちた瞳の男。そして、うわずった声で一言。
「な、何をくだらない冗談、言ってるんだか」
男性の目が点になる。カチカチに固まった顏で、モジモジする莉亜を凝視するのだった。