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♡第30話 出会いの時を思い出す時

 ボー然と独りだけで龍之介は公園で立ち尽くしていた。腕の中にいたはずのちさとは、もういない。彼女は何も答えず自分のもとから高科のもとへ戻ってしまった。自分の気持ちをさらけ出したのにどうして、高科のもとへ戻るのか自分には理解できない。


 龍之介にはもう今ちさとが本当は何を考えてるのかさえわからないのだった。ちさとと出会ったばかりの事を思い出す。

 当時は龍之介はおしぼり巻きのバイトでホストではなかった。

 ある時、裏方の仕事をしに裏口へ。裏口のドアの陰で女性が屈んでいる。


「そこに居られると、困るんですが」

「えっ、ごめんなさい」


 女性が裏口から移動した時、ピンクの頬と真っ赤な目が龍之介の目に映る。


「目、赤い」


 心配な表情の龍之介は手をそっと頬に触れた。

 龍之介の眼差しが彼女の心許なさげな表情捉える。


「大丈夫?」


 龍之介に何か勘づかれた気がした女性はたまらなくなって答えた。


「何も――ただのアレルギーよ」

「ホントに?」


 龍之介は疑念を持った目で今も女性の赤い顔を見つめる。


「仕事するのよね、ごめんなさい」

「別にいいけど」

「あなた高校生?」

「そうだけど、何か?」

「何かって、ここホストクラブでしょ?」

「ああ、おしぼりとか裏方のバイトしてるだけだよ、今は」

「そう」

「どうかしたの、お姉さんは?」

「お姉さんか――特になんでもないわ」

「そっ。俺には泣いてたように見えるけど」

「だから……それはアレルギーで」

「まっどっちでもいいけど」


 龍之介へは何も言わず女性は俯く。


「何か事情があるなら、毎日バイトでいるから、俺」

「――高校生に頼る程、困ってないわ」

「そっ。ならいいけど」

「でも、ありがとう。気持ちだけもらっておくわ」


 ふたりの会話がそこで途切れた。

 少しの間沈黙がやってくる。

 龍之介はそれを機にゴミやらを出したり、ケースだとか段ボールなどを片付け始めた。

 気持ちが落ち着いた女性は遠慮がちに仕事をこなす龍之介に初めて声を掛ける。


「あの……あなたの名前は?」

「俺? でも、もう会う事もないだろ」


 二箱の段ボールを担いだ龍之介。声が聞こえた前方下へ視線を女性の顔をみるのに少し下げる。

 背の高い龍之介の顔を覗き込む為、上目遣いとなるちさと。


「フゥ……ちさとよ。また会う事があるかもね、バイトくん」

「……ちさとね。憶えておくよ」


 ちさとは龍之介の言葉を聞いた後、大通りへ出る道を歩き出した。彼女の予言通り、その後も何度も顔を合わせる事に。

※第7/8/28/29話参照

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