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28ー②

 何故だかわからないが、高科ちさとに対してすごく挑発的な藤堂由香。

 ふたりの会話は手に汗にぎる展開で、あまりにも迫力があり過ぎて居心地が悪い。心中でそう感じると高原学は今すぐここから逃げ出したくてたまらないのだった。

 そして、龍之介を呼ぶのを口実に、ふたりの会話へ口を出すのを決心する。


「あ、僕――――僕、龍之介さんを、呼んで――――――来ますね」


 そんな学に言葉なく由香が睨みを利かした。すると、たじろいて身動きできない学に、思いがけない加勢が加わるのだった。


「あのぉ~もしも~し」


 玄関前にいた全員が階段がある方を一斉に注目。視線は最後の一段を残すのみとなった、そこに留まる片瀬莉亜だった。


「なんか、声聞えた気がして降りて来たんだけど――――――」 


 莉亜を見たふたりが、同時に声をそれぞれの気持ちを表したリアクションで名前を呼んだ。


「リアちゃんっ!」

 

 と、学が驚きと嬉しさがまじったような声で言ったのと同時くらいに、由香も小さく低い声のトーンで呟いていた。


「……莉亜」


 ふたりの顔をみてから、莉亜は不思議そうな顔で尋ねる。


「誰か訪ねてきてる、もしかして?」

「この方が榊本龍之介って方に用事があるらしいんだけどね」


 そう答えたのは由香。視線をちさとの方へ送って莉亜にうながした。


「そう、やっぱり気のせいじゃなかったんだ」

「そっ、莉亜ちょうどいいから、あんたが呼んできてあげれば」


 由香にうなづいてから、莉亜が改めてちさとへ声をかけた。


「じゃあ、今呼んで来ます。ほんの少しだけ待っていて下さいね」


 莉亜の言葉に助けられたような気分になるちさと。さっきとは違ってかなり場の雰囲気がよくなった。すると、精神的にゆとりがなかった、ちさとの顔にも笑みが戻る。


「ええ、ありがとう。とても助かります。それと貴女が片瀬さんね」

「そうですけど。どうして、あたしの事知ってるんですか?」

「ええ、噂をかねてから伺ってますよ、彼から。とても可愛らしい女性ね。噂と大違いだけどね」


 莉亜はちさとに対して、苦笑いだけで、対応すると二階へ龍之介を呼びに上がる。


(いったい、あたしに対してどんな噂してくれてるんだろ、結構適当なんだから)


 と、心中複雑な莉亜が、龍之介の部屋のドアを軽くノックする。


「なにか用か?」

「せっかく呼びに来てあげたのに。そんな言い方しなくてもいいじゃん」

「だから、早く言えばいいだろ。で、なに?」

「下にとてつもなく綺麗な女性が尋ねてきてるよ」

「あのなぁそう言う事は早く言えよ!」

「ちょ、ちょっとっ―――――――――彼女ってこの前一緒に歩いてた女性でしょ?」(※第20話④参照)


 と、莉亜が言っている内に龍之介は部屋から飛び出して階段を駆け下りていく。仕方なく後を追う様な形で下へ降りた莉亜。

 玄関先には龍之介とちさとの姿がもういない。同じく、学たちの姿も玄関にはないのだった。


 学と由香がいないか、とりあえず莉亜はリビングを覗きに行くことにした。

 リビングではソファでちゃっかりとくつろいていた学と由香がいる。

 莉亜がそのどちらともなく尋ねたるのだった。


「あれっふたりは?」

「すぐに出掛けて行ったよ。なんかふたりに話でもあったの?」


 と、素朴な答えと質問を切り返したのは学。


「んっ、ううん別に――――なんでもない」


 莉亜もソファの開いている箇所に腰掛ける。

 すると、由香がいやらしい顔つきで口を開いた。


「わざわざ、外出て行くなんて――――あのふたり――――――確実に、不倫ね」

「なんで、藤堂さんにそんな事わかるの?」


 莉亜の言葉に由香は少し戸惑うような複雑な表情で、言葉を切り返せないでいる。

 そんな彼女へ莉亜はさらに言葉を続けた。


「恋人かどうかもわからないのに、軽々しく不倫だなんて言っちゃダメだよ」

「なら、これ見なさいよ」


 と、由香が手に持っていた例のファッション雑誌をページの開けた状態で、莉亜たちに見せる。


「あっホントだ。記事の見出しに書いてある」


 一足先にみつけた莉亜はそう言うと記事を読み始めた。

 学はというと、まだ記事を目で追いながら視線がページを彷徨っている。


「莉亜ちゃん、特集ページのどこら辺り?」

「ほら、学くんここ」


 学にそう声を掛けると莉亜は記事の中心にある写真を指さした。それから、その周辺記事を真剣に読むふたり。無言で読み進めていくのだった。

 そのふたりの姿を見つめる顔はすでにドヤ顔になっていた。そんな由香は証拠にもなくまた話をもとに戻す。


「確かに恋人じゃないはね――――――むしろ、愛人ね」


 と、言った由香の言葉に、莉亜は雑誌を読むのをやめる。


「愛人って――――ますます余計な悪意がこもってるから、藤堂さん」


 彼女らの会話に釣られるような感じで、学も記事をある程度読み終わると話出した。


「確かに配偶者がいるみたいだね。それもお金持ちかぁ」

「でも、だからってふたりが…………そういう関係かは、わかんないんじゃ……」


 と、莉亜が遠慮がちにふたりへ意見を言ってみる。

 すると、由香は顔を軽く左右に振ってみせた。


「あれがそうじゃないって思えるだなんて、まだ餓鬼ね」


 そう言い終わった由香はまるで自分だけは大人だと言いたげな態度。その態度に内心、反感を感じた莉亜。


(餓鬼って――――自分だって同じ年でしょ、よく言うよ)


 と、一瞬そう思ったが、それより今は龍之介たちの名誉を守る方が先決。莉亜は改めてそう感じると気持ちを切り替えた。


「でも、そう言うのって下衆の勘繰りって言うんじゃないの?」

「ちょっあたしに向かって、ゲ、ゲ下衆――――――ですって」


 莉亜の軽はずみな言葉に異常なほど感情をあらわにした由香。莉亜も彼女の逆鱗に触れた事を察知して、慌ててフォロー。


「いや、そうじゃなくてね、あたしが言いたいのはそういう発言がってことで」

「どっちだって一緒じゃない。まさしく、あのふたりの関係の言い回しと同じよ」


 憤慨している由香は相当怒っている様子。フンッと言う感じに、莉亜から顔をそむけた。

 そこへ彼女らの様子を見守っていた学が、ふたりの会話を収拾する為、間に割って入る。


「それより、ふたりとも……もうその話いいじゃないかな。結局のところ僕らにはどうしようもないんだしね」

「確かにそれはそうだけど――――――もし不倫だったら、あり得ない…………いい大人が……」


 それでも由香は学に正論を言われても、まだスッキリとできない様子。

 莉亜も同じ様な思いでみる、納得出来ないでいる由香を。彼女をなだめる為なのか、自分でもわからないがこう答えるしかなかった。


「でも、ホントに学くんの言うとおりで――――――――あたし達には、結局……どうしようもない事だしね」


(とは言った……けど、本当の所――――――どんな関係なんだろ…………あのふたり)


 と、莉亜は無意識に龍之介たちの事を考えていると、いつの間にか、彼らが出て行った玄関の方へ視線が自然といく。自分の中で気がかりな感情が芽生えるのを感じるのだった。

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