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第28話 表紙をかざる彼女

 藤堂由香は榊本家のリビングにいた。まるで、自分家のように我がもの顔でソファーでゴロゴロ。読んでいる雑誌のページを、ため息交じりで1ページめくっては、ストローでアイスティーを飲むのだった。


「にしても、ヒマよねぇ。いつの間にか学もいないし。書置きにはバイト探すってあったけど。まっその点あたしはお金があるからいいけど」


 と、独り事を言っては雑誌をめくり、飲み物を飲む事を繰り返している。

 何気なくめくっていた雑誌の手を止めた由香。食い入るようにそのページを読み始めた。そのページには、でかでかと大きくて太い字でセレブ婚特集と書かれている。


「な~にがセレブ婚よ。雑誌にインタビューなんかされて、何浮かれてんのよ。これだから貧乏人は品がなくて嫌。あんたじゃなくて旦那がすごいセレブなだけじゃない」


 独り言を言いつつも、由香はその雑誌を熱心に読む。

 記事は質問をセレブ婚した夫婦が答えている内容と共に写真も載っているものだった。


「何々、高科コンツェルンの若き御曹司で高科聡志朗タカシナソウシロウ氏のハートを射止めたのは高科ちさとさん。見た目のルックスもいいが、中身はやまとなげしこと言っても過言ではないくらい、控えめな女性であるって、雑誌出てる時点で控えめじゃないっつ~のっ!」           


 雑誌を読んではその記事に対していちいち難癖をつける由香。


「この女、よく見たら、雑誌の表紙になってる女じゃん」


 そう言うと、今読んでるページにひとさし指を挟んで、表紙を忌々しそうに見た。

 雑誌には高科ちさとが写っている。表情は少し硬いものの、スラッとした女性が慣れないモデルのポージングをさせられて、何か言いたげにたたずんでいるのだった。


◆◇◆◇◆


 数日前に取材を受けた雑誌を複雑そうな表情で見る高科ちさと。

 この雑誌のインタビューも、表紙のモデルも高科聡志朗が勝手に仕組んだ事で、モデルの真似事をやらされる事も知らなかった。しかも、インタビューでは彼に従って、用意された答えを言わされただけの事。

 その日、ちさとはインタビューが終わってからひと言も声を発する事はしなかった。その出来事を思い出してちさとは浮かない表情を浮かべるのだった。

 ちさとのそんな表情を見た聡志朗が嫌味ったらしく声をかける。


「なんだ……また気に入らなかったのか?」


 ちさとはそう言った聡志朗の顔を一瞬だけ見たが、すぐさま顔をそむける。そして、わざと視線を外して答えた。


「――――――気に入らないも、何も……質問全部ウソをあたしは答えさせられたのよ」

「だから、なんだ? 君にうまくは答えられなかっただろ?」

「それは…………でも、それならインタビューを断る事もできたでしょ?」

「断るだと? 何寝ぼけた事を。俺は高科コンツェルンを率いる男だ。これから先、もっと世間に露出しなきゃならない。これから先もマスコミのたぐいは利用させてもらう。更に言えば君の指図など受けないからな」


 聡志朗は気に食わないと言った口ぶりでそう言い切ると、彼もまたちさとから視線を外す。その状態のまま、また話し出した。


「それと――――――君の気に入らない事は……まだあるが、今はお互い冷静になってから……その話はしよう」


 最後にそう言うと聡志朗は、自宅であるはずの家から、ひとりだけさっさと出て行くのだった。


 榊本家の引き戸を高原学がガラガラと開けたら、そこには藤堂由香が立っていた。


「お帰り」

「ただいま。先にリアちゃん帰ってるよね?」

「さっきバイト終わったみたいで、莉亜は自分の部屋にいるけど。それより学、莉亜の大学に一緒に行ってたんでしょ? なんで言ってくれなかったのよ」

「言うほどの事でもないし。それに少ししか一緒にいられなかったんだ。バイト探しもあったしね」

「あっそ、ならいいけど……それと話があるんだけど――――――」

「ごめん、疲れてるから今度にして」


 由香の話を遮って二階へあがろうとする学。

 今度は学を由香が身をていして行く手を阻んだ。両手を広げて、頑なに行かせない。それでも、階段の方へ行こうとする学。


「どうかした、由香ちゃん?」

「今日、話を聞いてほしいの」

「じゃあ、なんの話?」

「だから、これから先の事」

「これから先の事って?」

「だから、うちの親に言ってお金出してもらえば、バイトなんか行かなくていいの」 

「そんな事できないよ。僕たちただの友人なんだから」


 学の友人という言葉にムッとした由香が、何かを言おうとした時、チャイムがなる。音の間をおいてから、透き通った声が、玄関に聞こえてきた。


「ごめんくださ~い」


 その高い声と共に、今度は引き戸の開ける音がした。

 すると、学たちが知らない女性が、ひとり入って来た。

 女性はしっかりとした歩みで玄関に入り込むと、学の背中越しに見えた由香の顔をマジマジと見る。


「あら――――――貴女が噂の……片瀬、莉亜さん?」


 由香へそう言ってしずかに微笑む女性。


「ああ! そう言うあんたはっ」


 由香は驚き、自分のひと指し指を玄関の女性に思わず指した。彼女の指に釣られて学も女性を見る。

 そして、由香と女性の顔を交互にみて、ひと言、彼女に聞くのだった。


「由香ちゃんの知り合い?」

「ちがっ、違うんだってば。そうじゃなくて、知ってる顏!」


 由香と学の会話に違和感を感じた女性が、何気なく呟く。


「ゆかちゃん……知ってる顏――――――って?」


 不思議そうに女性は、ふたりの言った事を繰り返す。その行為が図らずとも由香と学、ふたりの会話を止めた。

 何かを察したらしく、女性は慌てた様子で上半身を頭ごと下げる。


「ごめんなさい」


 少し間をおいてから、女性が下げていた頭を起こすと恥ずかしそうに言った。


「あたしったら、どうやら人違いしてしまったようですね……」

「そういう事。失礼よ、このあたしをよりにもよって片瀬莉亜と間違えるなんて」

「本当に失礼致しました」


 また、女性は軽く頭を由香へ下げる。


「もうそれぐらいでね、由香ちゃん。それより、貴女はどなたですか?」


 頭を上げた女性に学が改めて聞くと彼女は真面目な表情で本来の話をし始める。


「あたしは高科と申します。榊本龍之介さんは御在宅でしょうか?」

「何の用?」


 と、これは由香がちさとへの態度をあらためる事なく悪態をついたまま尋ねる。


「彼に私用のことで伝えなければいけない事がありますので」

 

 答えに対して釈然としない学はちさとに疑問をぶつける。


「その彼の連絡先ご存じないんですか?」

「いえ、連絡先はわかっているのですが、携帯の方が通じなかったので」

「若い男性にお急ぎの用ってなんなのかしら? しかも、高科コンツェルンの奥様が」


 と冷笑的な物言いをした由香の態度に、ちさとは当惑を隠せないでいるのだった。 

※第2/26/27話参照 ※第7/8話参照

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