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27ー②

 「お前はそれでいいかもしれないが、俺は兄妹だって思ってない奴に、リアルに“お兄ちゃん”って言われるのは、ごめんだねっ」

 

 と、気に食わない口ぶりの祐大。

 すぐに続けて困惑した顔の慶太も言うのだった。


「それは俺も――――――抵抗がある…………第一、相手が信じる訳がない」

「信じさせれば問題ないだろ」


 と、龍之介は何か意図があるような口ぶりで答えた。その言葉がますます慶太を呆れさせた。


「龍之介、この世にそんな絶滅危惧種的なバカ……存在すると思うのか?」

「まぁ、兄貴と信じるバカはいないだろうが、いとこなら信じるだろ」


 あっけらかんとした口調の龍之介がサラッと答える。それでも慶太は、まだ小難しい表情のまま黙り込んでいる。そこへ満面の笑顔の良人がふたりの沈黙を破った。


「龍之介、いい考えだよ。それなら名前でも大丈夫だしね」

「ああ」


 と、返事を返してから、龍之介は莉亜に視線と言葉を投げかける。


「でも、そのかわり――――――嘘はもうたくさんだ。だから、今後俺たちを巻き込むような嘘はやめてくれ。それが協力する条件だ」


 釘をさす様な口調と、莉亜へ鋭い視線を向ける龍之介。その視線を受け止めた莉亜は彼の言葉に黙って頷いた。

 4兄弟とどうにか緊急会議が終わった莉亜。それからすぐに下に降りると、学に応急処置的な事情を話すのだった。


◆◇◆◇◆


「信じるよ――――――僕は」


 莉亜を目の前に、はっきりと何の迷いもなしに言い切った高原学。

 そんな学を、こいつバカなのって言いたげな目を向けたのは、藤堂由香だった。

 

「学、何言ってるの?」

「え? だってさ、いとこだったら家族みたいなもんだし、この人達と住んでても不思議じゃないよ」

「じゃなくて……いとこだって、本当に――――――信じるの?」

「信じるよ」


 即答した学は真っ直ぐに莉亜へと視線を向けた。


「にしても、そういう意味の家族だったんだね」

「うん。そう言う家族なの。誤解させてごめんね」

「ううん。まぁ確かに――――――日本にいとこがいるなんて話……全くの初耳だけど、いとこって言うなら……信じるよ」


 信じて疑わないと決め込んで莉亜を見る学。その彼の姿を由香は見ていられなかった。莉亜が本当の事を言わないなら、それを自分があばいてやる、とさえ考えるのだった。

 そして、ふたりへ水を差すような咳払いをしてみせる由香。


「んっ。片瀬さん、こっちはもう夏休みだからそれを利用してしばらく日本にいるけど、ホテルに一緒に彼と泊まるから――――――――」


 と、由香が最後まで言葉を言い終える前に、すかさず学が莉亜へ話し掛けた。


「あっその事なんだけど、僕はお金がないから、ここにリアちゃんと一緒にいられないかな?」


 学に応えようと少しの間考えてから話す莉亜。


「その問題は――――――あたしが答えられる事じゃないから、皆に相談しようかな」

「そっか、そうだよね」


 由香は横で落胆している学をそっちのけに、彼と離れたくない一心でいつの間にか口から言葉が飛び出していた。

 

「あたしもっ――――学がそうするなら、あたしもお金、お金の節約の為に」


 由香が目の色を変えて言っている姿に、莉亜と学が当惑を隠せないでいる。


「わ、わかったから、じゃ……じゃあ、ふたりの事――――皆にとりあえず聞いてみるから」

「そ、そうだね。莉亜ちゃんの一存って訳にも、いかないからね。頼むよ」

「う――――うん」


 莉亜はふたりの期待とは裏腹に頼りない返事しか返せないのだった。


◆◇◆◇◆


「あっはっはっはっ」


 食堂中の話声を吹き飛ばすほどの大きな笑い声は、食堂中の視線を一気に片瀬莉亜と笑い声の張本人へと注がれる。


「で、あんたは今彼氏に嘘ついて、彼氏と一緒にあの4兄弟と住んでるって――――あ、あり得なくない?」


 笑うのを堪えているのか、後ろの言葉の震えが止められない、鈴木あかね。その姿を見た莉亜は怒る気力もなく、ただただ彼女を睨みつける。


「んな顏したって、事実じゃない。あんたが悪いんじゃない?」

「それは……さ、そうなんだけど。だからって、そんなに笑わなくても――――――」


 不服そう視線を莉亜はあかねに向ける。彼女はその視線をかわすと、冷ややかな口調で会話を続けた。


「ちゃんと、ホントの事打ち明けないと、いつか――――痛い目にあうわよ」


 そんなあかねの言葉を莉亜がため息交じりでささやく。

 

「い……痛い目――――――か……ハァ」


 もごもごと口の中だけで呟き、それは隣にいるあかねには聞こえないくらいだった。

 あかねはそんな莉亜から視線を外すと、どこかをみつめている。


「あそこの男、あんたの名前言って、手を振ってるけど――――――もしかして……噂の」


 彼女は笑いをこらえて莉亜へと訊ねた。


「そうだよ、彼が噂の彼氏」


 そう言ってから、莉亜は視線の先にいる高原学に、笑顔で手を振って見せる。

 莉亜の姿を確認した学が、彼女たちのテーブルの方へ小走りで駆け寄ってきた。


「講義終わったんだね?」


 学は嬉しそうな笑顔で、莉亜へそう言うと、空いてる席へと座る。そして、彼女の隣にいたあかねへと愛想よく声を掛けるのだった。


「もしかして、莉亜ちゃんのお友達?」

「まぁ……」


 あかねが学の質問に答えるのを見た莉亜も彼に彼女の事を紹介するのだった。


「こちら鈴木あかねさん。少し前にメールで書いた友達」

「そっか、彼女がか」

「うん、そう」

 

 莉亜が答えた後、学はあかねを見てから優しく微笑んだ。


「これからもリアちゃんと仲良くしてあげて下さい。僕が傍にいられないから、彼女の事……色々心配で」

「えっあっ――――あぁ」


 困惑を隠せなくて、曖昧な返事をあかねは学に返す事しかできない。

 そして、ふたりの会話を聞いていた莉亜が、学に話しかける。


「学くん……心配しなくても大丈夫だから――――――ね?」


 莉亜の言葉に声を出さず頷いて返事をする学。その表情は複雑そうな笑顔だった。


「とりあえず、あたし講義だから。後はおふたりで」


 そう言うとあかねは席を立った。莉亜はそんな彼女を名残りおしそうな目をして見送る。


「うん、また――――」


 そして、学とふたりきりになると、莉亜は気まずくて視線を合わせられないでいるのだった。

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