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第27話 応急的処置

「やあ、リアちゃん」  


 そう言った彼の顔は屈託のない笑顔。

 莉亜の目の前には少し幼い顔立ちの青年がいた。


「学くんっ!?」


 驚きのあまり、目をかっぴらく莉亜。

 高原学はそんなリアクションの彼女を、爽やかな微笑みでただ見守るのだった。   (※第2話参照)


「な、なんでココのキッチンに? しかも、誰かと会話弾んでなかった?」

「あれ? メール読んでくれてないの? 今日から日本に行くって送ったんだけどな」

「PCココの所――――調子悪くて……読んでない」


 学は自分の手と手をポンっと軽く叩いて鳴らす。


「ああ、どおりで返事来ないとおもったよ」


 また彼は何の疑いもなく微笑んだ。その素直な笑顔が莉亜の胸に突き刺さる。それはさんざん嘘を書き並べて学に送った事が原因だった。


(あたし、何書いて送ったっけ……なんか思い出せない。ダメだ――――)


 今の自分には正常に頭を動かす事ができない。額からは冷汗のようなものがつたう。


「リアちゃん――――?」

「――――ん?」


 莉亜はそれ以上の言葉でしか学に答えられなかった。


「もしかして――――迷惑だったかな?」

「そ、そんな事ないよ」

「よかった。付き合った途端、遠距離で不安だったけど、変わらないね」

「うん、何も変わってないよ。会えて、すごくうれしい」

「そう言ってくれると信じてたよ。僕も嬉しいんだ」


 学は無邪気にそう言うと莉亜の腕を自分へと引き寄せてから、ギュッと抱きしめる。

 ふたりの様子を少し離れた所から、面白くないといった様子の男女ふたりがみつめていた。ひとりは榊本良人、もうひとりは高原学について来た藤堂由香だった。


「も、もう……感動の対面はそのくらいでもいいじゃないかな?」


 引きつった表情の良人がそう言うと莉亜から、学をひっぺがすのだった。

 学は良人に莉亜をひっぺがされても、嫌な顔ひとつせずにすずやかな表情で言葉がこぼれる。


「えっ――――ああ。人前で、はしたなかったかな」


 照れ笑いした口元からみえる学の白い歯が、良人にはドギツイ嫌味にも思える。


(彼氏いるって聞いてないし……俺)


 まさかの莉亜の彼氏登場で、良人は感情を掻き乱されて、通常の考え方で物事を考えれないのだった。

 今、沸々と学へのジェラシーが湧き上がるのを我慢するしかなかった。


 当事者である莉亜はこの会話に率先して参加したいとは思えないでいた。苦笑いを浮かべて状況を理解しようと、ただただバカのひとつ覚えのように、強張った顔で笑うのだった。

 そんな莉亜の顔を軽く睨んでから、他の誰でもない藤堂由香が会話を続ける。


「ホントにね。人前よ、学」


 高飛車な物言いでそう言った由香は、話をさらに掘り下げるのだった。


「ところで、ここにいるご家族、ご兄弟だけで住んでるみたいだけど、どうしてなんだろうね? ちゃんと説明してほしいよねぇ」

「そうだ、メールには家族ってあったけど……これには理由があるんだよね、リアちゃん?」(※第17話①参照)

「その……ど~だろなぁ、説明――――ね、説明」


 自分のおでこを何度も触れると落ち着かない素振りの莉亜。頭で状況を整理する一方で、良人に視線を向ける。

 莉亜の視線は助け船を求めるのだった。

 むちゃぶりな視線に困惑をかくせいないでいる良人。

 何度も瞬きをした良人が自分を指差して、もう一度視線で莉亜に確かめた。


(おっ、俺――――――?)

 

 莉亜は高原学たちに気づかれないように、小さくうんうんとだけ頷く。あまりのむちゃくちゃな彼女の要望に動揺する自分がいるのだった。


(どうしろと……俺に――――――)


 そして、良人はなぜか狐につままれたような気分になっていた。

 莉亜はそんな良人の気持ちも汲み取らずに、話をドンドン進めていく。


「そうだ、彼とふたりで大事な話があったんだ。少~しだけ待っててくれる、学くん」


 学にそう言いながらも、視線だけは良人を捕らえている莉亜。


「えっそうなの、リアちゃん?」

「うんうん、そうなの。すこ~しだけだから」


 そう言って、莉亜は半信半疑な様子の学に微笑んだ。すぐに傍にいる良人の腕を取って、キッチンを出る。

 釈然としない表情を維持したまま、良人は腑に落ちない眼差しで莉亜を見た。


「話って、そんな大事なものあったっけ?」


 莉亜に腕を引っ張られながら歩く良人が小声で尋ねると、泣きそうになりながらも小さなか細い声で彼女は答えた。


「お願い、このまま一緒に来て……」


 と、ほとんど半泣き状態。その表情で良人は本能でこの状況を、彼女の為に理解しようと試みるのだった。


◆◇◆◇◆


 今、莉亜の目の前には、4兄弟が集結している。

 ふたりで相談した後、良人が全員の部屋へ呼びに行ってくれたのだ。

 莉亜の部屋へ集まった彼らは、それぞれが不機嫌極まりない表情で、彼女の部屋の中にいる。


「んで、全員呼んで、なんの用だよ?」


 無愛想な表情の祐大がイスに腰掛けている莉亜を睨んだ。

 すると、莉亜が突然立ち上がって頭を下げる。


「これからは皆をお兄ちゃんって――――――あたしに呼ばせて下さい」

「――――ハァ……?」


 片方の眉を釣り上げた祐大。


「お前な、いきなり意味わからん事を、ほざくんじゃねぇよ。それに、例の兄妹とか言う話なら信じてないからな」


 誰の顔をも見れない莉亜は、ずっと頭を下げたまま動かない。


「―――――お願いします」

「片瀬さん、頭上げて」


 莉亜にそう言って近づいた良人。莉亜が頭を戻すと彼女へ少し微笑んでから、また話し出した。


「今、下に――――――彼女の……彼氏が来てるんだ」

「それが俺たちに、なんの関係があるんだ?」


 と、言ってから、慶太が良人と莉亜の方を見た。

慶太の冷めた言葉に負けじと良人も答え返す。


「普通に考えて、男と同居してる彼女なんか、信じられないだろ?」

「で、だから?」

「だから、その~この際、兄妹って言うことにしよう」


 良人の言葉で慶太がさらに険しい表情なる。


「たとえ今、そんな事しても、何も解決しないだろ」


 そして、もっともらしい意見を言うと良人をいさめたのだった。

 良人はそれでもまだ慶太に食い下がろうとしている。


「それは――――――今は片瀬さんが困ってるわけで、ふりだけだから……」


 話しながら不安をおぼえる良人。つい、横にいた莉亜を見るのだった。

 良人に応えるようと莉亜も口を開く。


「……彼らが滞在している間だけでも……その……ぶっちゃけ…………兄妹は、わかってるだろうけど……嘘。でも、今はそれでもお願い」 


 そう言うと、また必死に頭を下げた莉亜。

 今まで興味のない様子だった龍之介は頭を下げたまま動かない莉亜を見ると、初めて口を開いた。


「いいんじゃない。本人がそう言うのなら。俺はどんな呼び方でも、興味はないし」


 その言葉が莉亜の下げたままの頭を上げさせた。

 頭を起こした莉亜の視界に龍之介が入る。自分が無茶な事を言っている自覚があるだけに、彼に対して感謝を感じる一方で、疑念も抱くと複雑な感情がまじりあって素直に喜べない。そして、どんな言葉で返せばいいのかもわからなくなるのだった。


 黙って龍之介を見つめる事しかできない莉亜。ただ、他は彼の言葉を受け入れてくれるほど、お人好しでもない事も彼女はわかっていた。

 案の定、それが証明されるのに、さほど時間はかからなかった。

※第2話参照


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