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第26話 新たな火種

恋のお話へ展開。そして、更に色んな人物が絡み、複雑な恋模様へと発展していく予定です。

 講義が終わり、陽がまだ落ちていないうちに、家に帰ってきた莉亜。


「ただいま」


 ものすごく小さな声でそう言って、榊本家の玄関に上がる。キッチンではこの家の誰かが、友達と談笑する声が聞こえるのだった。


 誰も自分には気づいていない様子。ちょうど、莉亜にはそれでよかった。

 今日はなるだけ誰にも気づかれないように、という気持ちで帰ってきていたのだった。


 莉亜がそのままキッチンには顔を出さずに階段を何段かあがると、目の前が少し暗くなった。

 

「あっ……」


 と、その声は莉亜ともう一人の人間の驚いた声がハモったもの。

 莉亜が顏を上げると、榊本慶太がいるのだった。彼女の目の前には今一番顔をあわせない方がいい人物がいる。そして、声を出す事が出来ないでいるのは莉亜だけじゃなく、慶太もだった。


 ふたりとも対峙したまま、身動きできないでいる。

 莉亜がやっとの思いで、慶太へ言葉を捻り出した。


「――――ただいま」


 それだけ言うと苦笑いした莉亜。彼女のあまりになんの捻りもない言葉で、逆に面食らう慶太。


「あっああ……」


 慶太が答えてくれた事にひとまず安堵する莉亜。途中で止まっていた足をまた動かす。階段を上がろうとした時、慶太が腕を捕らえる。


「――――ちょっと待って」


 莉亜の腕を完全に掴んだ慶太。

 動けない莉亜がそれで慶太を見下ろす。彼の目はいつもより潤んだ感じで、目力もない。

 そんな慶太の弱弱しい様子が莉亜の気持ちを戸惑わせた。

 ふたりはどうしたらいいのか、わからない様子で動けずにいる。


「――――ごめん」


 そう言うと、莉亜の腕を握っていたのを放す慶太。


「――――――腕なら、大丈夫、痛くないから」


 慶太を少し見下ろすような形で見た莉亜が、そう言って軽く微笑んだ。


「そうじゃない……んだ」


 伝えたい事が言葉にできない慶太、言葉が口から出ない。

 莉亜も慶太が自分に何を言いたいのかが、伝わらなくて、困惑するのだった。


「――――鈴木、鈴木あかねから聞かされたんだ、大学で、この前の事を」(※第24話②参照)

「あかねから?」


 慶太から出た名前が意外だったので、莉亜も思わず口から名前が出た。


「ああ、鈴木から事情を聞かされた。俺の勘違いだった――――悪かったね……嫌な思いをさせてしまって」

「ううん――――――あたしもごめんなさい。勘違いさせて」

「もう、いいさ。お互い済んだことだから」

「――――――うん」


 莉亜が最後にそう返事をした。

 慶太は足を止めていた場所から階段を下る。

 その姿を見下ろす莉亜も自分の部屋のある2階へ上がる為、足を動かした。


「そういえば、今ので言うの忘れかけたけど、君に会いに来てる人が下のキッチンにいるけど」


 その慶太の一言で、階段を上がりきった莉亜が、同じ様に階段を降り切った彼を再度見る事になるのだった。

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