25ー②
神妙な顔つきの莉亜が何も答えないままうつむく。それを見て、最後にまた小野寺は彼女へ言葉をかける。
「よく考えて行動すればいいよ。君自身が決める事なのだから」
と、莉亜の頭に大きくて優しいものが触れる。それは小野寺教授の暖かくごつごつした手だった。既に立ち上がっていた小野寺を見上げると彼は今まで見た事もないくらい穏やかな表情をしていた。
小野寺教授の大人の振る舞いに、あれだけ苦手だったはずが、と肩の力が抜けるのを感じる莉亜。小野寺の今までの印象が変わり始めた矢先、言葉だけを残して彼は講義に向かうのだった。
そして、小野寺教授の後姿を見つめる莉亜へ、今度は悪戯な女性の声が背後から聞こえてくる。
「ふ~ん、そんなに教授のおしりってセクシーなんだ?」
莉亜がその声に過剰に反応して、声の方へ振り返る。
「あかねっ!」
「よっ何その顔は?」
「何って、あれからメールしても返事くれないから――――」
莉亜の話を聞きながら、今度は鈴木あかねが空いている席へ座った。
「ああ、あれからデートで忙しかったからね。それにあたしマメじゃないし」
「あっそ。なんか心配して損した」
「んっ?」
あかねが不思議そうに莉亜へと視線を向ける。その視線から目を逸らして、小さく応える莉亜。
「その――――この前の事……」
「この前? なんかあったっけか?」
「……もう、いいよ」
話を真面にしてくれないあかねに、呆れた顏で莉亜が返事をした。
「そっ。話変わるけど、教授の事見てたけど、興味でもあった?」
「えっないよ、何言ってるの、先生だよ?」
「でも、あの教授すごく若いし、キュートじゃん。結構女子から人気あるらしいけど」
「ふ~ん、そう言うのあんまり興味ない……」
「あっちは意外と興味あんじゃない?」
「あ~ないない。あるわけないじゃん。それにね、学生には特別ドSだし」
「まっ機会があれば、口説いてみるかな」
「はいはい――――」
あかねの態度に莉亜が呆れたと言ったような感じで笑った。少し気持ちがめげていた自分にとって、この会話がすごく気持ちをホッとさせてくれる。いつもの彼女らしい態度を見てとても安心するのだった。
いつも通りに今の会話を続ける莉亜。
「あかねって、いつもそうなの?」
「……何が?」
「男の人に対して――――――」
「ああ――――――真面目に付き合うのって、面倒だし」
「じゃあ、特定の誰かは――――いないんだ?」
「そういうのは、あんま得意じゃない……」
苦々しい顔で莉亜に答えると、あかねが教授と同じ様に今度は立ち上がる。
「もう、行かないと」
「ああ、うん――――またね」
と、言って座ったままの莉亜があかねに手を挙げて、軽く振る。それをみたあかねは優しく微笑んで食堂を出て行くのだった。




