第24話 それぞれの想いが独り歩きして……
講義中なのに莉亜は上の空だった。
数日前、慶太が倒れた時に言っていた言葉を思い出していた。
慶太が何度もうわごとのように呟いていた名前。
あれから莉亜はその事をずっと考えているのだった。
(リサって、誰なんだろう――――いったい。後であかねにでも聞いてみよう)
考えていた事を講義が終わると莉亜は速攻で実行に移す。鈴木あかねを学内の食堂へ、昼の休憩に呼び出すのだった。
「あかねって、良人くん以外の事も詳しい?」
「んっ――――」
飲み物をストローで吸うのをやめたあかねが、急な莉亜の質問に表情が険しくなった。
「なんで、そんな事聞くわけ?」
「それが――――慶太さんの事なんだけどさ」
莉亜の口からはあかねが想像していた名前じゃなく、違う名前が出た。話を理解するのに、その名前を彼女もまた口にする。
「慶太の事?」
莉亜はあかねの反応でなんとなく答えがわかった気がした。
「やっぱり――――よくは知らないよね……」
「ん~確かによくは知らないけど、あいつってすごく人に対して無関心な奴だったからな」
「――――――そっか」
「で、慶太となんかあったわけ?」
と、あかねは莉亜の話に無愛想な顔で聞き返した。
「ううん、なんとなく彼女とかいるのかなって……」
「彼女ねぇ――――――いたかも知れないけど、それがあんたと今、関係あるわけ?」
あかねのイラついた感情は、少しも莉亜には伝わっていない模様。そのまま会話を続ける莉亜。
「それがさ……この前、倒れた時にリサって名前を何度も言って、間違えてかわかんないけど、あたしの手を握ったんだよね」
「ふ~ん。それさ、あたしより、双子の弟の方に聞いた方が早いんじゃない?」
「だとは……思うんだけどね」
あかねの言葉に莉亜がバツのわるそうな顏をした。そして、言い訳をする。
「なんか――――――苦手なんだよね」
莉亜の言い訳が、また、あかねの気にさわったようで、急に組んでいた足をはずして、感情をあらわにして立ち上がった。
「あたしに関係ある話だと……思ったから付き合ったけど、関係ないならもういくよ」
思いもよらないあかねの怒りに莉亜は戸惑い、何も言えないでいる。莉亜の言い分などサラサラ聞く気などないあかねは、そのまま食堂を出て行くのだった。
あかねの突然の行動に固まる莉亜。そして、あかねが言った言葉を思い出していた。
(あかねに関係ある――――――話?)
「……待っ――――て」
活気に満ちた学食で独りテーブルに残された莉亜。彼女の言葉だけが、学生たちの騒がしい声にかき消されるのだった。