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22ー②

 まさか、今日良人とがダメになるとは思っていなかった莉亜。こんなにまで買い物を交代してほしいのには理由があった。それは一番自分が苦手にしている人物との買い出しだったからだ。

 そして、その人物は莉亜の目の前に今居るのだった。


「今日は、良人のはずじゃなかったの?」


 慶太の部屋のドアを開けて顔をのぞかす莉亜。苦手意識が先行してうまく説明できない。もごもご口ごもるのだった。


「それが――――その……」


 部屋の奥には慶太が机に向かっている。ちらっとこっちを見たがそれ以降はこちらを向こうともしない。

 室内はとてもきれいに掃除されている。部屋には慶太のセンスをうかがわせるようなシックな家具が並んでいた。


 その中に小さめな本棚がある。そこにはきちんと整理した本が並び、小難しそうな本もたくさん並んでいる。その中でも目を引くのはとても分厚い本。背表紙には六法全書と書いてある本がまじっているのが、遠くからでもわかった。


 確か六法全書とは、法律がずらずらと書かれている本で、なんら面白い本ではなかったはず、と莉亜は頭の中で思い出した。何故そんな本が慶太の机にあるのか、思い出す為記憶をたどる。そして、良人の言葉を思い出すのだった――――――慶太が弁護士を目指していることを。


 莉亜が脳内でそんな事を思い出している内に、いつの間にか慶太が椅子と一緒に回転して、彼女を恐い顔で見ている。


「ちゃんと聞かれた事にはすぐ答えてくれないかな? こっちも暇じゃないんだから」

「ごめんなさい、今日はあたしが良人くんの代わりで――――」


 申し訳なさそうな顔の莉亜。そんな彼女の言葉を慶太が遮って言うのだった。 


「わかった。車出すから」


 ホッとした莉亜は思わず気が緩んだのか、不用意に慶太へ話しかける。


「あっうん。そう言えば慶太さんって弁護士を目指してるんだよね?」

「……ああ」

「そっか、じゃあすごく頭いいんだね?」

「――――そういう話は時間の無駄だから、早く用事を済ませよう」


 そう言って、慶太が立ち上がりながら机を片付ける。


「えっ……ごめんなさい」


 慶太の態度に戸惑ったような悲しげな表情を浮かべる莉亜。そんな様子を見て、彼もまた少し戸惑うのだった。


「いや、別に――――――ただ、君も忙しいだろうから……ごめん」


 戸惑いながらも慶太は莉亜を気遣う言葉を自分なりに探っている。


「だから――――」


 どう言えばうまく言葉が伝わるのか不器用なりに考えるのだった。

 慶太のとまどいが莉亜にも伝わってくる。

 心配そうに自分を見る莉亜と目が合った慶太。そして、ある少女の瞳が脳裏に浮かんだ。


「だから、そんな顔、しないで――――ほしい……」


 そう言った慶太をみて、莉亜はようやくわかったような気がした。

 これまでの慶太の態度や言葉はワザとじゃなくて、ただ人に対して不器用なだけで、彼は親しくない相手に対して雄弁に語ったり、感情を出すのが苦手なだけ。だから、いつも冷たいような態度しかとれないのかもしれない。


 莉亜はそう思う事で、勝手に救われた様な気分になった。


「ありがとう、気づかってくれて」


 莉亜がそう慶太へ微笑んだ。

 慶太はその表情を見て、戸惑いから悲しい感情に変化する――――――あまりにも彼女は似すぎているからだった。そんな複雑な想いの感情には、莉亜が気づく事はまったくなかった。

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