第22話 ダブる面影
理由はどうあれ、良人はふたりの内緒の話を、榊本兄弟にバラしてしまったのだ。その事で莉亜はバイトが終わった日から、2、3日良人とは口をきかないように無視している。
「片瀬さ~ん、もういい加減、機嫌を直してよ。俺なんでもするからさ。そうだっ今度の夕飯の当番交代するよ。それと買物当番も交代するよ。なんなら、2週間交代するから」
良人は今莉亜の部屋の前で、彼女に謝る為、通い詰めていた。
朝になると毎日来てドアを挟んだ廊下側から返答もないのに、莉亜に話しかけるのだった。
「何、お前まだ謝ってたのかよ」
と、自分の部屋から出てきた祐大がうざそうに良人へ言い放つ。頭の後ろをボリボリかきながら、良人の後ろを横切って階段を降りていく。
祐大の言葉が耳に入っていたが、ここは相手にしないと決めていた良人。ホントは直接文句を言ってやりたいがその衝動をグッと堪えた。
(俺が誤ってんのは誰のせいだよっ誰の! お前のせいだろっ―――――――って、今は雑念を捨てないと)
「片瀬さん、ホント俺反省してるから……」
その言葉以降、莉亜の心をどう説得するか、言葉をもう一度選びなおす良人。
時間が少し経った頃、話しかけたのは莉亜の方だった。
「本当に当番交代してくれるの?」
「もちろんだよ。交代する。だから……機嫌直してくれるよ、ね?」
「それはこれからの交渉次第でね」
「買い物、1カ月は交代するし、なんでもいう事きくから。マジでこの前はごめん」
あまりに必死な良人が可笑しくなってきた莉亜は、自分の部屋で声を出さないようにクスクスと笑うのだった。
(もう、そろそろ許してあげないとね。逆に良人くんが可哀想になってきちゃった)
◇◆◇◆◇
数日後、珍しく良人と莉亜が玄関先で揉めていた。この間の事がきっかけでふたりは一層仲良くなったが、今日はなにやら小競り合いをしている。
押し問答する事、10分。どうどうめぐりを繰り返す会話。
「良人くん話が違うじゃない!」
「ごめん。だから今回はどうしても交代してあがれないんだ」
玄関から外へ出ようとする良人の服のそでを、莉亜が情けない顔でめいっぱい引っぱった。どうにかして良人をこのまま引きとめるのに必死だった。
「だってだって、この前約束してくれたのは?」
「今回はホント急にバイトが入ってしまって、無理なんだ。わかってくれるだろう?」
「わかるけど……今日は絶対交代してほしいのに――――」
「あっ、バイト間に合わなくなるから」
と、良人は半分莉亜の話を無視して、彼女の手から自分の服を力任せに取り戻した。
「ちょっ――――――」
莉亜がそう言い掛けようとした直後、良人は既に目の前から姿を消していた。玄関の引き戸が無情にも良人がでていったままになっている。少しの間、茫然と突っ立っていたが、しばらくして気を取り直すと、引き戸を仕方なしに閉めるのだった。




