21ー②
「お兄ちゃんそれぞれ、どの飲み物を注文してくれたの?」
と、これも莉亜は微笑んだが、瞳は全く笑っていない。
4兄弟は莉亜のすべてが色んな意味でツボにハマってしまうと、誰ひとりとして、真面に彼女へ答えれない。
なぜか、良人は莉亜の全身をマジマジ見終わるとニヤけた表情。
祐大は涙目で腹を抱えて大笑い。
龍之介いたっては莉亜に目を合わさない上に、口を一文字にしてギュッと開かないようにしている。身体を小刻みに震わせている。どうにか声を口から出さない様に笑っていた。
挙句の果てはいつも無表情な慶太が笑うのを我慢しているという現実。
その上、彼は顔面の筋肉をピクピクとけいれんさせて笑わない努力をしているのだった。
片腕を軽くお腹に添えた祐大が大爆笑しながら、莉亜へ指差す。
「お、おま、お前――――――お、お兄ちゃんって」
正直、ここまで馬鹿にされるとは思っていなかった。
こんなに笑い飛ばされると自分の今置かれている状況が、もう――――正直どうでもよくなってきた莉亜。瞳をキっと見開くと祐大をひと睨みしてから、尋ねる。
「で、誰がどの飲み物?」
威圧的な声と真顔の莉亜。
それを見た祐大が馬鹿笑いするのを止めた。
「あ……お、俺はアイスコーヒー」
祐大の目の前に無表情な顔でアイスコーヒーを莉亜が置く。それを見た慶太も何事なかったような表情で、注文したドリンクを催促した。
「……ストレートティー」
「俺はブラック」
と、龍之介が慶太に続いて言うと良人も我に戻ったのか、自分のドリンクを答える。莉亜が持つステンレス製のサービストレイの上に残ったドリンクを指した。
「残ったそれ、俺が頼んだ飲み物」
莉亜は良人には何も答える事もなく、少し水滴が付いたガラスコップをテーブルに置いた。
ほんのちょっと前、莉亜のメイド姿を見て幸せの絶頂だった良人。だが、今は一転して不機嫌そうな彼女の顔色をうかがう始末。
「片瀬さんありがとう」
莉亜の顔色は少しも変わらず、そればかりか良人はスルーされるのだった。
「それでは、注文は以上で宜しいでしょうか?」
莉亜の口調で気まずい空気を察した良人。なんとか空気を変えたい一心で笑顔で顏を立てに振る。
莉亜はそれを見ると無言で頭をペコリと下げてからまた来た方向へ去って行く。その間、一度も良人に目線を合わせる事無く、キッチンの方へ戻った。
莉亜の冷たい態度にとてつもない後悔が良人を襲うのだった。
(俺、かなりマズイ事しちゃったな……怒るのも当たり前だよ。謝らないと)